神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『バイオニック・ジェミー』 悲壮感なきサイボーグ

 現在、CSのAXNで『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』(原題『The Bionic Woman』)がシリーズ一挙放映されている。その前までは、順番からしたら後発の『地上最強の美女たち!チャーリーズ・エンジェル』(同『Charlie's Angels』)が同局で放映されていて、この度待望の公開となったわけだ。

 

 

 小学校教師のジェミー・ソマーズ(リンゼイ・ワグナー)は、スカイダイビング中の事故によって瀕死の重傷を負う。だが、たまたま彼女の婚約者が「600万ドルの男」スティーブ・オースティン大佐(リー・メジャーズ)だったこともあり、彼の懇願によってジェミーはバイオニック移植手術を受け、命を取り留めると共に、右耳、右手、両足に超人的な能力を有することとなった。以後ジェミーは、スティーブと同様、オスカー・ゴールドマン局長(リチャード・アンダーソン)の指揮下で科学情報局(OSI)のエージェントとして活躍することとなる。

 

 私は実はこの『バイオミック・ジェニー』がとても好きで、中二だった頃、毎週日曜日22:30から始まるこのドラマを欠かさず観ていた。かの角川映画『野生の証明』にリチャード・アンダーソンが出演していた時も「あ、ゴールドマン局長じゃん!」って思ったくらいだったし(;^_^A 『600万ドルの男』はテレ朝の「土曜洋画劇場」のラストを飾った放映作品で印象深く、勿論ドラマと一緒に以前から知っていただけに、その“女性版”ともいうべき本作の存在を知った時には、驚きと感激が同時に来たような思いだった。やはり当時から「ヒロインアクション」に興味を持っていたのだろう(;^_^A 

 

 もっとも、このドラマの存在に気づいたのが、オンエアされてしばらく経ってからなんで、最初の方は観ていない。また、あれだけ好んで観ていたのに、そのストーリーはほとんど覚えていないヾ(- -;) ただ、ジェミーそっくりに整形した敵役にすり替えられて刑務所に入れられたジェミーが脱走し、とある民家に立てこもり、自分の身の潔白(自分がジェミーであること)を証明するために、警察の側にいるゴールドマン局長に小声で何か囁くよう要求し、それを改造された右耳で聴きとることで、自分が本物のジェミーであることを証明する、っていうシーンだけは覚えていた(この時はそっくりさんの敵役も薬によって超人的なパワーを有していたので、この聴力でしか、ジェミーは自らの存在を証明出来なかったっていう設定)。

 

 ところで、彼女に施されたバイオニック移植手術は、一連の仮面ライダーシリーズやジャッカー電撃隊、もしくは『メカゴジラの逆襲』における真船桂(藍とも子)に匹敵する、大胆な人体改造だ。しかし日本のこの手のドラマ・映画における“改造人間の悲哀”というものが、『バイオニック・ジェミー』(そして『600万ドルの男』)にはない。それはひとえに彼女が改造されたいきさつや、その改造のされ方にあると思われる。

 

 本郷猛は、悪の秘密結社ショッカーに拉致され、理不尽に改造手術を施された。それが仮面ライダーの誕生であり、ライダーの存在によって人類はショッカーの魔の手から逃れることが出来たにせよ、当人の本郷猛にとっては、悲劇以外の何物でもない。人間としての生活を奪われ、過酷な戦いを(おそらく無償で)強いられるのだから。ジャッカー電撃隊の4人も、「地球平和のために」と懇願され……っていうか“詰め腹を切らされて”超人に改造されていく。ライダーやジャッカーに共通するのは、共に脳(意識)以外、すっかり機械の体になってしまう点である。

 

 ジェミーの場合は、事故によって瀕死の重傷を負い、その生命維持のために改造されたので、その点は、デストロンに瀕死の重傷を負わされダブルライダーの改造によって何とか命を取り留めた『仮面ライダーV3』風見史郎(宮内洋)やゴッドに同様の仕打ちを受け、父親の手によって再生した『仮面ライダーX』の神啓介(速水亮)に近いものがある。しかし、V3とXのそれはやはり理不尽な死の危機であり、ジェミーのケースとは異なる。実験中の事故で急死し、いきなりブラックホール第三惑星人の手によってサイボーグ化された真船桂も、その事故自体第三惑星人による画策の可能性が高いだけに同様である。強いて言えば、飛行機事故で命を失い、サイボーグとして甦る、アニメの『ミラクル少女リミットちゃん』のケースに一番近いかもしれない。もっとも「リミットちゃん」の場合は、サイボーグというよりはアンドロイドに近い。

 

 

 それでもう一つクローズアップされるのは、ジェミーの改造のされ方である。毎回ドラマのOPで、彼女の事故のいきさつから改造(移植)部位に至るまで丁寧な説明が施されているんだけれど、その際、彼女の両足は、あくまで事故で欠損した部位だけを移植したことになっている。つまり下半身全体ではないのである。物理的に考えて、両足の付け根から上は元の人体のままで、足だけ機械に挿げ替えても、超人的な走力・跳躍力が発揮出来るかは甚だ疑問なんだけれど、それはとりあえず置いておいて、重要なのは彼女の下半身、はっきり言えば女性にとって大切な生殖器の部分には何ら改造がされていない点である。こんなことを書いて下世話な話題にとられてしまうと困るんだけど、これによって彼女は普通の女性と変わらず、異性と愛し合うことも子供を出産することも、要は女性として人間としての生活を失わずに済んでいるということなのである。それは「600万ドルの男」スティーブにも言えることで、二人は単に事故で失った人体部位を、バイオニック技術が開発した義手・義足で補っているだけにすぎない、改造人間ならぬ普通の人間なのだ。全身を機械に改造されたら、肉体的に人を愛することが困難になることを考えたら、改造人間の悲哀の中心はこの点にあると考えても過言でない。

 

 自ら起こした事故で失いかけた命と身体を、科学の力で救ってもらい、それによって超人的な能力を有し、それでいて人間の営みを失うことなく再生できたジェミーが、その恩人でもある(そして莫大なる移植費用を賄ったくれた)科学情報局のために力を貸すことは当然といえば当然の成り行きであり(その上、国の機関故それなりの報酬もあろうし)、そこには「改造人間の悲哀」も「戦う者の悲哀」も存在しないだろう。だから、単純に右腕・両足を失い、右耳の聴力も奪われたと考えたら悲惨な状況しか思いつかないはずの彼女が、実に生き生きと、そして颯爽と活躍する姿に、何の違和感も覚えないのだろう。