神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

中川信夫監督が描いた“ウルトラ怪談”?

 現在CSのファミリー劇場で放映中の『ウルトラマンレオ』。先日の回は第33話の「レオ兄弟対宇宙悪霊星人」。特撮も円谷プロのヒーローも大好きだが、ウルトラシリーズの、それも『A』以降の作品にはあまり食指が動かず、今回も「あ、レオやってんだ」くらいにしか考えずに、ボ~っと画面を観てた(主題歌が終わったらチャンネル変えようか、ぐらいの気持ちで)ところ、いきなり思いがけないテロップが目に飛び込んできた。

 

「監督 中川信夫

 

 

 ええ! かの新東宝で『亡霊怪猫屋敷』『憲兵と幽霊』『女吸血鬼』『東海道四谷怪談』『地獄』を、そして東映で『怪談蛇女』を撮った、「地獄でヨーイ・ハイ!」の中川信夫監督が、まさかウルトラシリーズでメガホンを執っていたいたなんて、今の今まで知らなかったよ。嗚呼、何たる不覚!!!ヾ(- -;) (実際には『レオ』で2話ほど演出していたらしい)。

 

 

 物語は、確かに怪奇色溢れる内容だった。突如地球に来訪し宇宙悪霊アクマニヤ星人(いかにもな名前!)は、一つ目の巨大な球体として日本上空に飛来し、地上にその怪しげな悪霊を解き放つ。それによって、サブキャラ・トオルの従弟であるタカシ母子は、団地ごとその悪霊の妖気に支配されることとなる。

 

 この団地での悪霊描写がなかなかネチッこい。まずタカシの母親が部屋中を占めた妖気や引き出しから飛び出した怪しげな手の執拗な攻撃によってベッド上に金縛り状態になる。そこへ帰ってきたタカシが母親の異変に気付き、気付けの水を呑まそうと蛇口を開くとそこから真っ赤な血がドバッと流れだし(この描写が結構エグい!)、そこへ間断なく雷光のフラッシュと激しい風が襲い掛かる。このシーンでは、赤や緑といった原色のライトが明滅し、まるで新東宝や大蔵映画の怪談を観ているようだった。しかも、そこへ彼らを案じてやってきたトオルも、同様に部屋に立ち込めた悪霊に苛められ、挙句は母親は天井に張り付けられ、彼らも部屋の壁から無数に飛び出してくる手に襲われ続ける(この描写が実にネチッこい!)。この一連のシーンは、昔何の予備知識もなく観たことがあったが、当時も「子供番組にしては結構やってるな」って思ったことを思い出した。更に言うならば、構図をやや斜めにして不安定感を煽ったり、映像ぞのものもまるで水面のように捻じれぼやけた効果が施されていて、流石中川信夫演出の面目躍如といった、実に個性的且つ作品の雰囲気にあった演出だったといえる。そういえば、冬木透氏による劇半も、怪奇性を強調するためか、『ミラーマン』のものが多用されていたし、アクマニヤ星人の形態もどこか『ミラーマン』に登場する怪獣っぽかった。

 

 もっとも、特撮シーンの方は、アクマニア星人の二段変形や、レオの危機に弟のアストラが参上するといった、サービス満点の展開で、どこかおどろおどろしいドラマパートの中川演出とは一線を画したように見えた。否、むしろ中川演出の方がいい意味でそれまでの『レオ』の世界観から考えたら異質だったといえるのかもしれない。

 

 円谷プロ作品には他に、『怪奇大作戦』『緊急指令10-4-10-10』『恐怖劇場アンバランス』、そして土曜ワイド劇場枠の一連の“円谷現代怪談”といった、氏の作風に遭ったシリーズ・作品はあったものの、実際、中川監督が円谷プロで演出したのは、本作と「さようならかぐや姫」の『レオ』作品2品だけだ。そういえば、「さようならかぐや姫」の方も、今思えば「竹取物語」の世界観に忠実な“伝奇モノ”の様相を呈していたし、かぐや姫こと弥生が突如十二単姿に変身し、そのまま歩きもせずス~ッと飛ぶように移動していく姿も、怪談っぽかったかな……ちょっとこじ付けだけど(;^_^A

 

 中川信夫監督の晩年は、テレビドラマが中心で、子供向けでいえば、他にも国際放映(かの新東宝の残滓!)の『コメットさん』も演出している。その時の演出がどうだったが知る由もないが、今回の33話のように、“ウルトラ”のフィールドで、自らの感性を遺憾なく発揮して傑作を作り上げたその技量は、まさに感服するしかない。そういう意味では、この作品は“ウルトラ怪談”でもあった(;^_^A