神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

「角川映画」と角川春樹氏の弁明

 今、『みをつくし料理帖』に注目している。

 

 現在、2年かけて継続している「月に一度は劇場で映画観賞」は、昨年4月の『キャプテンマーベル』以降、先月まで欠かさず続いている。しかし、今月(10月)の最有力候補だった『ワンダーウーマン1984』がまさかの上映延期(12月25日まで)となり、本作の10月上映を見越してもう一つの候補だった『映像研には手を出すな』を既に先月末観賞してしまったので、現在10月の候補が見つからず悩んでいた(;^_^A  そんなところにいきなり最有力候補として名が挙がったのが、『みをつくし料理帖』なのである。

 

 

 物語は「江戸に出てきた大坂出身の料理人・澪が、東西の味の好みや水の違いに苦心しつつも徐々に道を切り拓き、料理を通じて人を幸せにしていく姿を描く」というもので、個人的にはおよそ興味もわかない、江戸時代を舞台にしたヒューマンドラマだ。しかも主演は、何かと所属プロの介入が取りざたされる松本穂香だったりする(まあ“個人的”には、呉を舞台にした『この世界の片隅で』実写ドラマの主演だったり、地元ゆかりの中国電力のCMに出たりしていて親近感はある子なんだが……(;^_^A)こともあって、今まで一切食指が動かなかった映画だ。また、例えば『鬼滅の刃』の映画チラシが上映3週間前に、しかも一人2枚限定で配布される中、件の『みをつくし料理帖』はおよそ3ヶ月前からずっとチラシがシネコンのコーナーに設置されていて、興行サイドからも強気なのか弱気なのかわからない扱いになっていた。しかし、本作がいきなりダークホースとして我が注目を浴びたかといえば、ひとえに本作の監督が、かの“角川映画ブーム”を巻き起こし、最近も『男たちの大和』でスマッシュヒットを遂げた角川春樹氏であるからに他ならない。しかも本作が氏にとって“最後の監督作品”なんだそうで、それもあって、あたかも角川春樹“監督”に引導を渡すかのように、往年の角川映画スターである薬師丸ひろ子・渡辺典子・野村宏伸(『キャバレー』ほか)・榎木孝明(『天と地と』)・石坂浩二(『犬神家の一族』)・鹿賀丈史(『野獣死すべし』)・浅野温子(『スローなブギにしてくれ』)・中村獅童(『男たちの大和』)といった錚々たる面々がキャスティングされていて、まるで昭和から平成までを網羅した「角川映画の同窓会」といった様相を呈している。昭和の角川映画ブームの真っただ中に青春期を送り、且つ角川映画のおかげで今の仕事と趣味を見つけた身としては、やはり本作を劇場で観届けないわけにはいかないだろう(;^_^A

 

 私が最初に“角川映画”の洗礼を受けたのが、森村誠一原作・松山善三脚本・佐藤純彌監督・松田優作主演による『人間の証明』だ。当時の角川書店のメディア戦略はすさまじく、それこそ「この映画を観ずしてどうする!」って思わせるほどのものだった。その戦略にまんまと引っかかった当時中二の私は、一晩で原作本を読み終え、勇んで劇場(今は亡き広島東映)に足を運んだ。俗にいう「読んでから観る」派だった。ただ作品自体があんなに面白く且つ感動的でなかったら、このマイブームも一過性のもので終わっていたかもしれないが、本作を観て十分満足した私は、後に大林宣彦監督作品を追いかけたように、『野生の証明』『戦国自衛隊』『復活の日』『探偵物語』『時をかける少女』『キャバレー』『彼のオートバイ彼女の島』と、角川映画を劇場で観まくった。角川春樹氏自身にも、『戦国自衛隊』のPRで広島に劇中登場する61式戦車ソニー千葉と共にやってきた際、生の姿を拝見した。

 

 やがて、彼の傍若無人な言動や、度重なる成功に倒するやっかみ半分の批判記事に触れるようになって、彼の存在を否定するようになり、彼の監督作品さえ、「ずぶの素人が傲慢な態度で現場のスタッフを苦しめたんだろう」なんて妄想を抱くようになって、いつの間にか“アンチ角川”になってしまっていた。その後、彼が大麻所持で懲役を喰らった時も「そうれみろ」なんて思ってしまったものだった。

 

 そんな氏に対する思いが一変したのは、氏と清水節氏の共著による「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」を読んでからだった。本著には、一見傲慢に見えた角川春樹氏の、意外にナイーブな一面や、決して傲慢ではないあくまで謙虚な人柄が垣間見られた。そこで思ったのは、今まで氏を批判・揶揄する文章は何度も読んできたが、逆に氏からの弁明を一度も見聞きしておらず、それ故一方的な意見で勝手に春樹氏を嫌悪していたに過ぎなかったことだ。裏を返せば、今まで数多の批判に、氏は一切弁明してこなかったともいえる。

 

 

 そう思うと、結局既得権益にとらわれ、時代の寵児たる角川春樹氏を排斥した邦画界と、その口車に乗って、氏を揶揄していた私のような稚拙な映画ファンは、邦画の未来に向けての貴重な芽を図らずも摘み取ってしまったことを猛省しなければならないだろう。事実氏は『男たちの大和』で見事に復活を遂げたのだから………

 

 そんな“弁明”を読んで、初めて公開される氏の監督作品が『みをつくし料理帖』なのである。これは、往年の角川映画ファン時代の気持ちに戻って、何はなくとも劇場で観賞しなければ………!