神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

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渡哲也 ~敢えて石原裕次郎に殉じた俳優~

 在りし日の石原裕次郎と、現在の渡哲也が最新の映像技術によって共演する……そんな「松竹梅」の最新版CFが今生の別れになろうとは………

 

 

 14日夜、ニュースで渡哲也氏の訃報を知った。最近テレビなどで拝見する氏の姿や異常なほどにしゃがれた声、しかも“終活”を匂わせるような石原プロモーション清算などを見聞きするにつけ、ある程度の″覚悟”もできていたつもりだったが、この事実を目の当たりにすると、やはり衝撃と共に一抹の寂しさを感じずにはいられない。

 

 彼はいろんな意味で「石原裕次郎に殉じた」俳優だったと思う。日活アクション華やかし頃、俗にいう「日活ダイヤモンドライン」は、石原裕次郎小林旭赤木圭一郎・和田浩司の4人だった。のちに赤木の死を受けて、“ダンプガイ”二谷英明と“エースのジョー”宍戸錠が加わることになるが、そんな日活の黄金期を肌で感じていない世代としては、何故そこに渡哲也が入っていないか、甚だ疑問だった。実際渡哲也が藤竜也らと共に活躍したのは、日活末期の、東映に倣った仁侠路線だったし、しかも彼は日活の倒産を待たずして、東映の方で本格的な活躍を始めた……否、石原プロモーションのナンバー2として、邦画各社を渡り歩いた、といった方がいいかもしれない。実際、石原プロ制作の日活配給作品でも、常に重要な役回りを演じていたし。

 

 東映では、かの最凶のやくざ者を演じた『仁義の墓場』や、自らのヒット歌謡を題材にした『やくざの墓場 くちなしの花』あたりの衝撃作が印象深いが、他にも東宝配給で制作に石原プロも参画した『ゴキブリ刑事』2部作が有名だ。その後、石原プロ制作の日テレドラマ『大都会』シリーズで件の『ゴキブリ刑事』の雰囲気を引きずったかのような「黒岩刑事」を熱演し、お茶の間のヒーローとなる。

 

 面白いのは、彼の日活時代は“ダイヤモンドライン”から外れた実録路線で、東映でも、当時の実録路線をリードしていた本流の『仁義なき戦い』への出演はなく、日テレでも、当時石原プロ制作で空前のヒットを遂げていた『太陽にほえろ』には主演していなく、何だか常に“傍流”にばかり関わっていた印象がある。しかし当初は“傍流”だった『大都会』シリーズもヒットを重ね、「黒岩刑事」役でブレイクした彼は、その直後、その『大都会』シリーズをさらに過激にスケールアップしたテレ朝『西部警察』シリーズで、これまた件の「黒岩刑事」を凌駕するようなキャラクター「大門刑事部長」役で、その名を不動のものにする。

 

 “大門軍団”の『西部警察』シリーズはテレ朝を代表するくらいの“お化け番組”と化し、渋いサングラス姿にショットガンで、悪党を情け容赦なく撃ち殺す、まさにタイトルの如く「西部劇」のようなノリで過激に活躍する役柄で、いつしか「渡哲也=大門団長」のイメージが定着してしまった。半面、役者として一番脂がのっていた時期を石原プロに捧げ、徒に大門役で浪費したことを惜しむ声もある。でも彼は頑なに、石原プロのために大門刑事部長役を粛々とこなし、その後番組『ゴリラ』にも出演し続けた。そして、早逝した社長・石原裕次郎の跡を継ぎ、あくまで石原プロのままで、社の存続に骨身を削ってきた。しかも自分の死期を悟ったからか、裕次郎から預かった石原プロモーションをキチンと清算して、生涯をかけて裕次郎に忠誠を誓った感がある。だからこそ、彼は「石原裕次郎に殉じた」俳優であると思えるのだ。

 

 もし仮に、裕次郎の早逝という“イレギュラーな事態”がなかったら、その後の渡哲也氏の役者人生はどうなったであろう。きっときれいな形で独立を果たし、彼自身の役者人生を今以上に謳歌していたのではないか。そしてそんな彼を裕次郎は後押ししていたんじゃなかろうか。運命の皮肉から、どこか裕次郎の“黒子”としての立場を貫いた渡哲也氏だったが、晩年は長患いに苦しみ、且つ“やくざな世界だから”と芸能界入りを大反対したくらい大切にしていた実弟渡瀬恒彦氏を先に亡くすなど、苦悩ばかりの人生だったんではなかったか。それ故、今は天国で裕次郎や弟の恒彦氏と再会を果たし、且つ裕次郎からは心からのねぎらいの言葉をもらっているかもしれない。今頃天国の邦画界は、また新たな大物俳優を得、沸き立っていることだろう。そんなことを妄想しながら、今は氏の逝去を悼みつつ、冥福を祈りたい。

 

 

 大門団長よさらば! 合掌…………