『ANNA/アナ』 ~愛すべき“予定調和”のヒロインアクション~
恒例(マイブーム?)の「月に一度は劇場で映画観賞」。今月(8月)選んだのは、リュック・ベンソン監督の『ANNA/アナ』。この作品の存在を知ったのは、今年6月のこと。件の新型コロナウィルス禍によって広島での公開が7月末日までずれ込んでしまったが、何といってもリュック・ベンソン監督作品。ヒロインアクションとしての前作『LUCY/ルーシー』の完全無欠っぷりに心酔していたので、本作も期待に胸膨らませて、「ようやく」といった思いで鑑賞した。
主人公のヒロインは、ソヴィエト連邦(当時)で暮らすアナ・ポリアトウ。暴力的で自堕落な情夫・ペーニャとの生活に辟易し、海軍へ志願をした日、彼女はペーニャの起こした誘拐事件に巻き込まれ、逃亡する羽目に。そこでペーニャを殺害し、ある意味アナを救い出したのが、志願情報から彼女に興味を持ったKGBのアレクセイ。彼は「5年後は自由の身」という言葉で巧みにアナをKGBに勧誘し、そこで過酷な軍需い訓練を施して、KGBの秘密諜報員兼アサシンに育て上げる。彼女は上官のオルガの命を受け、フランスのファッションモデルを隠れ蓑に、任務を遂行する。やがて「5年後の自由」が近づいてきたアナだったが、彼女の能力を買うKGB長官のワシリエフから「KGBから解放される唯一の方法は死ぬことだ」といわれ、また彼女が詰問したアレクセイからも「5年後まで生きているとは思わなかった」という言葉が飛び出し、彼女は自分が騙されていたことを知る。
そんな折、アナはとある秘密諜報と殺人を請け負ったが、それはCIAの罠であり、拉致された彼女はそこでCIAのレナードから2重スパイになることを強要される。その際彼は、アレクセイと同様に「1年後の自由」を条件に出す。KGBに悟られないために、殺しの任務は遂行する中、やがてCIAが3年を費やして計画した、壮大なミッションに、彼女は借り出されることとなる。
本作の特徴は、陳腐な表現をすれば「カメ止め」テクニックが多用されている。それは各シークエンスが終わったのちに、その前日壇がネタ晴らし的に挿入される点である。物語冒頭でも、たまたまモデルを探していたフランス人のスカウトが、偶然街市場で売り子をしていたアナを見初めるシークエンスも、その後、実は彼女をミッションのためフランスのファッションモデルにさせようと、事前にスカウトの行動を察知し、売り子としてアナを配置し、しかも市場でスカウトを彼女のいる場所に導くべく、KGBのメンバーが市場の住人になりすまし、巧みに道を遮って、スカウトをアナの元に導かせていた、なんて説明シーンが後付けで挿入される。このパターンが延々繰り返されるので、徐々に「これも裏があるんだろう」って斜に構えてみるようになってしまった。しかしこの「すべてには裏がある」って設定が、決してアナを追い詰めるわけではなく、逆に劇中毎度窮地に追うやられる彼女が、実は全然ピンチではないってのを証明してくれるものなんで、「ヒロインは完全無欠」が“好物”な私にとってはむしろ歓迎すべき設定だったよ(;^_^A
そんなわけで、20世紀が舞台の、米ソを股にかけた女諜報員って設定といい、シャーリーズ・セロンの『アトミック・ブロンド』と非常に似通っていると感じた。ガンアクションと格闘技ありの展開も一緒。ただ、『ANNA/アナ』の方が、壮大なミッション(KGB長官暗殺)の割には展開自体は単純かつ後付けの説明もあるので、こっちの方がストーリーが分かり易かったかな。正直なところ、『LUCY/ルーシー』的世界を期待した身としてはいささか“肩透かし”の感が無きにしも非ずだったが、そこはそれなりの”予定調和”の妙を味わうことができる作品だったよ(;^_^A
アナを演じるサッシャ・ルスは、wikiに記事がないくらいまだまだ発展途上の女優で、実際目の覚めるような美女というわけではない。しかし長身で均整の取れたボディーにしなやかなアクション、そしてアンニュイな雰囲気を醸し出しつつ、その奥にぶれない芯の強さを感じる、そんな演技のできる「アクションヒロイン」の新星だ。しかも実際にロシア人ってのが、物語世界とマッチしていて、巧みな人選だったと思う。身体能力も高そうだし(^^) せっかくリュック・ベンソン監督のお眼鏡にかなったのだから、今後ももっともっと“こっち側”の女優として、ヒロインアクションの世界に身を委ねてほしいね(;^_^A