『スーパーティーチャー熱血格闘』 ドニー・イェンは宇宙最強の“天使”だった!
今年度も続けている「月一回は劇場で映画観賞」。今月の作品は『スーパーティーチャー熱血格闘』。本来ならば今月初旬に横川シネマ!!で公開されるはずだったが、新型コロナウィルス感染防止に伴う非常事態宣言によって劇場が休館の憂き目に遭ったので、観賞が叶わず。このままでは今月の劇場観賞すらできないか、と覚悟はしていたが、先週何とか解除の運びとなり、このラインナップも復活、結局月末ギリギリで劇場映画観賞ができた。思えば先月の『野獣処刑人ザ・ブロンソン』も、大手のシネコンが軒並み休館する中、かろうじて横川シネマ!!が上映を続けていてくれたので、観賞が叶った作品だった。しかもその翌週から休館になったので、これまた“ギリギリ”だった次第(;^_^A
さて、今回観賞した『スーパーティーチャー熱血格闘』だが、先月『ザ・ブロンソン』観賞時に観た予告編がきっかけだった。それにしても映画館の予告編で観ようと思うなんて今まであっただろうか(なんて書くと曲りなりにもYoutubeに自作品の予告編流して上映会に来てもらおうとしている身としては、如何なものかと思うが……ヾ(- -;)。しかも主演のドニー・イェンにさほど興味があるわけでもなく、ヒロインが登場するわけでもないのに……ただ、予告編の映像で躍動するドニーのハチャメチャで完全無欠っぷりに惹かれたってところだろうか。
そんな思いで楽しみにしていた『スーパーティーチャー熱血格闘」だが、意外にも泣けた! 泣けたのである!(゚Д゚;) 勿論笑いもしたし興奮もした、でも一番の感情は「泣けた」だった。
同時に販売していたパンフレットも600円と、今どき考えられないほどの良心価格!
本作は、ドニー・イェン演じる、元アメリカ海兵隊員の肩書を持つ男・チャンが、香港でも学力最低で補助金の打ち切りによる廃校の危機に瀕している徳智(タックチー)学園に新米教師として赴任するところから始まる。しかもチャン自身の強い希望で。そして彼はそんなボンクラ学園の中でも札付きの問題クラス6Bの担任に抜擢される。初めての朝のホームルームで彼がクラスに出ると、案の定教室内は、居眠り、スマホ、ゲーム、立ち歩いての談笑、そしてあろうことか机を並べて朝食の炊事までやっているまさに“怪獣無法地帯”。それでもチャン先生は顔色一つ変えず、輪ゴムを飛ばしてスプリンクラーに当て、教室内の生徒を水浸しにして涼しい顔。当然ながら6Bの生徒はチャン先生に反発する。しかし翌日、入口の扉に水入りのたらいを仕掛けるという極めて古典的な悪戯を、すんでのところで難なくかわし、返す刀でたらいにエルボー一閃!当事者に叩きつけるというド派手なパフォーマンスや、「煙草に関する質問3つ」「答えられたものから順に1時間授業をサボってもOK」という型破りな授業に生徒が乗せられ、チャン先生は徐々に生徒たちのハートを掴んでいく。
6Bを牛耳るワルの中心メンバーは、リーダー格のレイ(ジャック・ロウ)、双子のクワン兄弟(ブルース・トン/クリス・トン)、パキスタン移民の子・ホン(ゴードン・ラウ)、そしてベリーショートヘアの女子生徒・ウォン(グラディス・リー)の5人。この5人組が前半は俗にいう“超ムカつく”連中で、彼らの存在でチャン先生の前途の多難さを感じさせるが、彼らが学内のエリートであるバスケ部の生徒と大喧嘩を起こし、彼らだけが一方的に退学させられそうになったのを、チャン先生が校長や同僚を説得して撤回させた辺りから、状況は変化していく。もっともそれをきっかけに5人が改心したわけではなく、そこから、チャン先生の強烈すぎる“教育的指導”が展開していくのである。
移民の3世であるホンは、その容姿とは裏腹に広東語を“ネイティブ”として流暢に使いこなすが、そのアンバランスさで子供の頃からバカにされて自信を失い、将来歌手になりたいという夢を持ちながら人前で歌うことを恐れている。それが彼を非行に走らせていることを知ったチャン先生は、“夜の家庭訪問”でチンピラに追われるホンを助け、公園のとある路上ライブに自ら飛び入りして美声を披露し、その輪の中にホンも連れ込むことで、彼の“路上デビュー”に一役買ってやる。
将来カーレーサーになりたいと願うウォンは、男である弟ばかり溺愛して自分には冷たく、且つ女らしさを強要する父親に反発している(ベリーショートなのはそれが理由)。そこでチャン先生は、父親をけしかけ、何とサーキット場で娘とゴーカート対決をさせる。互いにヒートパップしていく2人は、サーキット場を飛び出し、公道で危険すぎるレースを始める。路上を走行する一般車両の間を縫い歩行者を蹴散らしながら、ムキになって競い合う2人。その後を悠々と追うチャン先生の黄色いゴーカート(この時の、しれっと無表情でカートを操るドニー・イェンの姿は笑える(;^_^A)。やがてハンドル操作を誤ったウォンのカートは相対するトラックに衝突し、粉々になる。それを見て思わず自らのカートを捨て慌てて駆け寄るウォンの父親。その時ウォンはすんでのところで難を逃れていたが、トラックの陰に隠れて父親にはその姿は見えない。すると父親は破壊されたカートの残骸に取りすがって、どれだけウォンを愛していたか泣き叫ぶ。その言葉を聞いてこれまた涙するウォン。そこでウォンは号泣する父親の許へ行き、その肩をそっと叩いて、気づいた父親と熱い抱擁をする。
幼少時代、実の母が他所で男を作って家を出ていったという暗い過去を持つクワン兄弟は、それがきっかけでろくに仕事もせず酒に呑んだくれては辛く当たる父親に心を痛めている。それを知ったチャン先生は父親を説得して、断酒プログラムに参加させ、兄弟に内緒でその施設にボランティアに行かせ、そこで父親の口から直接、呑んだくれた理由(妻に逃げられてその心の傷を誤魔化すには酒に溺れるしかなかった)や、そんな自分の情けなさ、子供たちへの償いなど、といった心情を聞かせてやる。他の生徒にはあくまで第三者のボランティアを装いながら、ひそかに涙を流す2人。
彼らの退学が撤回された後も、レイだけは登校せず、年老いた祖母との2人きりの生活で困窮した家計を支えるため、バーのウェイターのバイトを続けていた。そこで悪徳ボクシングジムのオーナー・ロー(ユー・カン)の金色のライターを盗んだことから制裁を受け、さらに格闘技大会での八百長を成立させるため、無敵のチャンピオンに筋肉弛緩剤を盛ることを強要される。しかしその目論見は失敗に終わり、レイはリンチを受けた上に会場のロッカーに軟禁される。そこへやってきたのはチャン先生。レイを取り戻すために、屈強の格闘技者を相手に、チャン先生は大立ち回りを演じる。ここがチャン先生ことドニー・イェンの前半の魅せ場で、ワイヤーアクションの技術も伴って、常軌を逸したジャンプ、キック、パンチを炸裂させる。また技を受けて吹き飛ばされるリアクションもこれまた常軌を逸していて、まさに亜空間! さすが“宇宙最強”ドニー・イェンの面目躍如である。並みいるマッチョを次々となぎ倒し、無数に並んだロッカーも片っ端からなぎ倒し、自らもリアクションで派手に吹っ飛びながらも、チャンピオンすらKOし、後は涼しい顔でレイを連れて格闘技会場を後にする。そして、「孫は学校の優等生である」と信じて疑わない祖母の許へレイを送り届ける。
その格闘技会場での大立ち回りは新聞やニュースの格好のネタとなり、そこでチャン先生が元アメリカ海兵隊員であったことや、実は徳智学園のOBで暴力事件を起こし中途退学したなどの過去の“武勇伝”が世に知られることとなった。そうなるともうチャン先生に反発する生徒はいない。次の日のホームルームでは、6Bのクラスメートが全員最敬礼で「グッドモーニング、先輩!」と朝の挨拶。やや照れながら笑顔で返すチャン先生。
その後6Bの生徒は改心したかのように勉強に没頭する。そして大学進学に向けての模擬試験での高得点を目指す。しかしクワン兄弟の兄・カイチン(ブルース)だけは、先天的な多動性障害によってどんなに勉強しても成績が上がらない。弟や皆に取り残された焦りか、彼は人生に悲観し、住処の高層アパートのベランダから身を乗り出して投身自殺を図る。幸い一命は取り留めたものの、悪者探しのメディアは手のひら返しで担任であるチャン先生の指導方針が原因だと批判する。彼は教育局にも呼ばれ、指導のあり方を非難されるが、逆に生徒の個々のことを考えない型通りの教育に疑問を投げかけて局を後にする。そして徳智学園の教職員や生徒の懸命な働きかけも空しく、チャン先生は学園を去ることとなる。バイクに跨ったチャン先生の姿を校舎越しに見つけて慌てて階段を駆け下りる6Bの面々。それでも彼らの「行かないで」の声に振り向くことなく、チャン先生のバイクは走り去っていく。
落ち込む6Bの生徒に、優秀クラスの担任でチャン先生に心惹かれるリョン先生(ジョー・チェン)は、次の模擬試験で高得点を挙げることが、チャン先生の名誉回復と、例年大学進学者を出せなくて廃校の危機にある徳智学園の存続に繋がると力説する。そこから6Bの生徒は、元々学力はトップクラスのレイを筆頭に、目の色を変えてますます勉強に精を出す。
しかし、汚い仕事も一手に引き受ける悪徳ジムオーナーのローは、徳智学園が廃校になったらその跡地への高層マンション建設を目論んでいる地上げ屋と結託して、チャン先生が去った今こそそのチャンスと、徳智学園生徒の学力を上げさせないため、卑劣な作戦を画策する……そしてクライマックス・スペクタクルを迎えるんだけど、そこだけはネタバラシを避けておこうヾ(- -;)
本作の魅力は何といっても、企画・制作も務めた主演のドニー・イェンに尽きる。そのアクションの凄まじさもさることながら、教師として人間として生徒と向き合うチャン先生の演技が素晴らしいし泣かせるのである。哲学的には「金八先生」、方法論は「山口久美子(『ごくせん』)や「一条寺さやか(『こんな学園みたことない!』)って言ったところか。そういえば格闘技に精通した熱血先生といい、学園一の問題クラスの担任といい、最後は力で事件解決といい、学園の土地を狙う地上げ屋の登場といい、男と女の違いこそあれ、本作と『こんな学園みたことない!』との共通点が多い。もしかしたらドニーイェンや脚本のチャン・タイリーは、『こんな学園みたことない!』を観たことがあるんじゃないかな、って思うくらい(;^_^A
それはそうと、抜群の戦闘能力と教育に対する熱い思い、そしてまさに型破りな方法論で徐々に生徒の心を掴んでいくチャン先生の姿は、ドニー・イェン以外何人たりとも真似できない、“宇宙最強”だからなせる業の、タイトル通り「スーパーティーチャー」ぶりだ。勿論、5人の不良生徒たちへのアプローチ(教育的指導)は、実際の教育界ではありえないアナーキーなものだが(唯一可能なのはクワン兄弟の父親のケースくらいか)、それが違和感なく成立するのはまさにムービーマジック。しかし、こんな「荒療治」を求めている生徒って、実は世の中に意外と多いんじゃないのかな。そう考えると、まるでチャン先生が「天使」のように見えてくる。粗削りで滅法強くて無茶苦茶で、それでいてとびきり優しい「天使」のように。
また映画としても超一級だ。日本版の予告編では割愛されていたが、劇中、まだアメリカ海兵隊員だった頃のチャンが戦地(中東辺りか)に赴いて戦争の虚しさを思い知らされるシーンがあるんだけど、ほんの数分のシーンのために“リアルな戦場”のセットが用意されていて、おびただしい火薬による迫真の爆発カットと大量のエキストラによる戦闘直後の悲惨な場面が描かれている。このシーンはチャンの深層心理に触れる大切なシーンではあるが、たとえ短くても、金も手間もかけて決して手を抜かない、制作サイドの心意気が見てとれる。また海兵隊を除隊したチャンが世界をさすらうシーンの畳みかけるカットは、おそらく中国国内でロケしたものばかりだろうが、逆に南北に広がる中国大陸の壮大さが伺えて、実に興味深い。中でも実際の万里の長城で撮った、ドローンの空撮も駆使してのカットは、抜群のロケーションだ。ともすればこじんまりとまとまりそうな学園ドラマを、これだけのスケールで撮っているというのも驚異的だし、香港の、否、中国映画界の底力を思い知らされる気持ちだ。アクションシーンもしかり、格闘技会場での大立ち回りやクライマックスの教室で破壊され続けるおびただしい数のロッカー・机・椅子は、ドニーの超絶なアクションを彩る素敵なオブジェと化している。公道ゴーカートレースの目の回るような映像も実にスピーディーかつ危なっかしくて、自分が乗っているような錯覚すら覚える。とにかく丁寧なつくり込みが感じられる映画だ。
滅茶苦茶強くてとびっきり優しい人情派で、それでいて確固たる信念の赴くまま、迷いなく万事を遂行していく、チャン先生ことドニーイェンの問答無用ぶりにただただ圧倒される。物語も『3年B組金八先生』『ごくせん』『夕焼け番長』『燃えよドラゴン』の世界観を詰め込み、ラストには先日CSで観たばかりの『20世紀少年 -最終章- ぼくらの旗 』のラストまでかじったような展開。それでいて全体像は『こんな学園みたことない!』を彷彿させる内容。何とも欲張りな映画だ。でもこんな先生、こんな生徒たちに心底憧れる。チャン先生が学園を去るシーンの、生徒たちの溢れる涙は、別れを惜しむ生徒とそれを背に受けながら去らざるを得ないチャン先生の双方の立場が胸に迫り、こちらの方まで涙を禁じ得なかった。その直前の彼と生徒が一番打ち解けているシーンもしかり。素敵な映画だった。きっと誰もが共感できると思う。これだけの映画が、広島では僅か一週間の公開だなんて何とも勿体ない。だからこそ広島近郊の方にはこのかけがえのないチャンスを大切にしてほしい。横川シネマ!!に足を運んでほしい。今本作を広島で上映しているのは横川シネマ!!だけだから。もし、それが叶わなくても、いつか来るであろうDVD・ブルーレイ販売の機会をものにしてほしい。きっとブルーレイを買うぞ!
何はともあれこの一本で今更ながら、ドニー・イェンのファンになってしまったよ(;^_^A そういえばドニー先生って、私と同い年だったんだね(゚д゚)! それを思うと「自分は何をやってるんだ」って自問自答したくなっちゃうよヾ(- -;)
それにしても昨年度はシネコンばかりでヒロイン活劇のウェイトが高かったのに、今年度は横川シネマ!!中心で、しかも立て続けに“男臭い”アクションばかり観てるなぁ。もっとも、横シネのエグゼクティブシートは、シネコンに引けを取らないゆったりできる豪華版なんだよね(^^)