神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

稀代のアクションヒロイン 志穂美悦子

 本来は「スタントウーマン」を目指し、岡山から上京して、千葉真一率いる「ジャパンアクションクラブ(JAC)」の門を叩いた塩見悦子。そんな彼女がサニー千葉御大に見出され「志穂美悦子」という芸名を戴き、やがて彼の猛プッシュで弱冠18歳にして主役の座を射止めた。それが、後にシリーズ化されることになる『女必殺拳』である。

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 本作は元来、香港のクンフー(カンフー)ブームに便乗した東映が、『燃えよドラゴン』でブルース・リーの妹役を務めたアンジェラ・マオを招聘して、彼女を主人公に据えたヒロインアクションムービーを撮る予定が、彼女の来日が叶わず頓挫してしまったため、急遽その穴埋めとして企画されたものである。結局別企画(最終的には頓挫してしまう『日本の仁義』)制作のため降板したものの、本作に企画段階から深く関わってきたのが鈴木則文御大。だから彼女の後の隆盛は、サニーのプッシュを鈴木御大が受け入れたことがきっかけといえなくもない。

 さて、この『女必殺拳』シリーズ3部作全てで、彼女は英領(当時)・香港から海を渡ってやってくる(日中混血の)捜査官という設定になっているが、これは彼女の凜としたチャイナドレス姿を披露することと、物語世界をインターナショナルにする狙いがあったのだろうが、本来アンジェラでヒロインアクションムービーを撮るという企画の“名残”のようにも感じるには、いささか勘ぐりすぎだろうか……?(;^_^A ちなみに主人公の「李紅竜」とは、同じく鈴木監督が育てた『緋牡丹博徒』シリーズのお竜姐さんからインスピレーションを受けた岡田茂社長が命名したものであるそうだ。

 この『女必殺拳』3部作で“アクション女優”の称号を獲得した志穂美悦子は、その特性を活かし、映画・テレビで大活躍していく。近年では『少女は異世界で戦った』の武田梨奈や、『太秦ライムライト』『BRAVE STORM ブレイブストーム』の山本千尋をはじめ、“美形でピンも張れるアクション女優”が台頭してきてはいるが、当時の志穂美悦子の場合、その「魁」となったばかりでなく、上記の娘らと同等……否、凌駕するくらいの美貌と愛くるしさを誇っていたことを考えると、当時の世に与えるインパクトは絶大だったのではなかろうか。それこそ“ムサい男たちのアクション界に咲いた一輪の可憐な華”のように……。それ故、「ポルノ路線」や「スベ公映画」横行していた当時の東映プログラムピクチャー界において、彼女だけは、唯一の例外といえる内藤誠監督『若い貴族たち 13階段のマキ』(彼女がズベ公グループのボスを演じる)を除いては、一切“汚れ役”を与えられることはなかった(この点は、内藤誠監督も自著「偏屈系映画図鑑」の中で言及している)。「エロ」と「アクション(バイオレンス)」が同居していた当時の東映では希有な例であろう。まさに『竹取物語』で言うところの「いつき養ふ」である(;^_^A

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『若い貴族たち 13階段のマキ』より

 そんな「アクション女優」としての志穂美悦子の、ある種集大成と呼べるのが、鈴木則文監督の一大傑作『華麗なる追跡』である。(以下次回)