志穂美悦子の『華麗なる追跡』

　貿易商だった父を、密輸の濡れ衣を着せられた挙げ句殺害された主人公・八代忍は、国際的なレーサーという世を忍ぶ仮の姿で再来日し、父を罠に陥れた悪徳代議士らへの復讐に奔走する……アクションあり、小ネタあり、そして意外にもエロスまでサービスした、アクション女優・志穂美悦子の志穂美悦子による志穂美悦子のための……否、そればかりではなく鈴木則文監督の面目躍如といっていい作品、それが「華麗なる追跡」である。

　本作の一番の特徴は、元々鈴木監督の敬愛していた往年の大ヒットシリーズ『多羅尾伴内』のテイストを盛り込み、志穂美悦子演じる八代忍に“七変化”させる点に尽きる。これによって彼女は「キューティハニー」ばりに“女多羅尾伴内”の称号を授かる訳なんだけれど、このことが、後に思いがけない波紋を起こすことになる。

　内容においても、天津敏、石橋雅史を筆頭に、登場する敵役は同情の余地もないくらい無慈悲な悪党ぶりで、“勧善懲悪”の様相を呈しているし、ニヒルでワイルドな“タキシード仮面”とでもいうべき郷鍈治の思いがけない助っ人ぶり、豪腕・マッハ文珠とのつかの間の確執と友情、そして何よりも、志穂美悦子の危機をものともしない圧倒的な強さとアクションといった、“王道娯楽アクション”の全ての要素がてんこ盛りで、心底楽しめる。そこへ「ある時は～またある時は～」と、かの片岡千恵蔵御大の名台詞と共に、彼女の華麗なる“七変化”を堪能できるのだからたまらない！　鈴木組常連の「コメディーリリーフ・由利徹のとぼけた味も絶妙なスパイスで、その上「ショッカー」もかくやというべき敵側の戦闘員集団や化の嬢生での火薬の量、更には“前衛劇”を彷彿させる、あろうことか熊の着ぐるみを纏って情交に及ぶ悪徳代議士など、もう玉手箱というよりは“パンドラの筺”をひっくり返したかのようなアバンギャルドなシチュエーションが展開し、それでいて決して破綻せず、絶妙のバランス感覚で描かれている。この点は「流石」としかいいようがない！

　

　もっとも、「エロス」を含めた娯楽エンターティメントの要素を全てぶち込んだ本作においても、やはり志穂美悦子は“聖域”として、拉致されていかに過酷な拷問を受けようとも、決して“性”の対象にはなっていない。ある種「東映ポルノ路線」の残滓も感じさせる本作の中では希有な存在ともいえる。

　ストーリーは勿論“予定調和”なハッピーエンドで幕を閉じる。事件を解決し悪を滅ぼし、赤いスポーツカーで颯爽と都心の街並みに消えていく彼女の姿に、どうしても続編を期待してしまいそうだが、本作のテーマが復讐劇でしかも劇中その本懐を遂げた後となっては、それも望めなかったのだろうな。（以下次回）