神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

いかめしい天使の切ないロードムービー

 “健さん”こと、稀代の名優・高倉健に関しては、最近過去の作品を立て続けに観たんだけれど、どれも「第二東映」からの“東映プログラムピクチャー”ばかり。そんな中で、今日はたまたま『あなたへ』を放映していたので何となく観賞していたんだけれど、意外にも引き込まれて、最後までしっかり観させてもらった(;^_^A
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 ストーリーは、健さん演じる妻に先立たれた刑務所の指導教官・倉島が、他界した亡き妻(田中裕子)の遺言で、彼女の遺骨を散骨すべく、富山から彼女の故郷長崎へ、ミニバンを運転して向かう、という典型的なロードムービーで、言ってしまえばたわいのない話なんだけど、健さんは行く先々で豪華ゲストの出会いと別れを繰り返すのが、本作の売りだったようだ。彼に絡むのは、ビートたけし、ナイナイの岡村、草なぎ、佐藤浩市綾瀬はるか大滝秀治といった面々。他にも“小池百合子”になる前の余貴美子石倉三郎浅野忠信といったキャストも実にいい味を出していた。

 ここで健さんは、自分が“癒し”を求めて旅してるのに、図らずも彼に絡む登場人物の心をいやしていく。本人には自覚がないが、その姿はまさに“いかめしい天使”だ。これも役者としても“神懸かっていた”健さんだからなせる技か。特に、佐藤浩市のメモ書きを見て、夫を海で亡くした(はずだった)余美貴子ががハッとする、というベタ過ぎる演出があって、すぐに佐藤の素性は観る者に知れてしまうものの、彼女が夫が遭難した海に投げてくれと手渡した娘・綾瀬はるかの結婚写真を、後に佐藤に再会してさりげなく手渡すシーンなど、全てお見通しのような、天使めいた演出だったよ(^^)

 また、風景も綺麗で、特に健さんが大浦(大滝)の船で散骨した際の、平戸瀬戸に沈む夕陽と漁船とのコントラストが墨絵のように素晴らしく圧倒されるくらいだった。こういった具合で、本作はストーリーの起伏で楽しませるより、健さんのにじみ出る渋さ、優しさ、粋さ、そして“天使ぶり”をただただ楽しむ、「環境映画」のような作品だった。

 ところで、この作品とどうもカブるのが、健さんが「日本で一番『出所後初めてビールを飲む演技』が素晴らしい」ことを内外に知らしめた『幸福の黄色いハンカチ』だ。ロードムービーとしても共通点があるあの映画で、健さんは車に乗って妻との「新たな再会」を果たすが、今回は同じ車に乗っても、妻との「最後の別れ」に向かってひたすら走り続けている。思えば『幸福の黄色いハンカチ』が、それまで東映プログラムピクチャーのヒーローだった健さんを、一躍映画界のトップスターに押し上げた、つまりヒーローからスターになるスタートの作品だったことを考えると、そんなスター・健さんの遺作である本作が、同じロードムービーだったっていうのも、何とも感慨深い。

 それにしても、映画は虚構と判っていても、配偶者に先立たれるシチュエーションを観ると、何とも切なくて胸が詰まる。そんな時はますます家族がいとおしくなり、少しでもみんなに尽くさなければ、なんて思いに駆られてしまう。

 こんな映画を観て、「時の尊さ、今この瞬間の大切さ」を噛みしめるのも、とても重要なことだと思う。