神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『広島仁義 人質奪回作戦』

 かつて広島進出を画策した関東のヤクザ連合に対して果敢にも闘いを挑み、抗争の末、彼らを撤退させた、広島ヤクザの雄3人。しかし、一人は罪を被って服役し、一人はこれを機にと広島ヤクザの連合会を結成してそのリーダーに収まり、一人はその連合に異を唱えたため、広島所払いを余儀なくされた。そんなかつての仲間3人が、服役を終えた一人の出所によって、思いがけない抗争へ巻き込まれていく……

 『仁義なき戦い』シリーズも完結し、東映実録路線が曲がり角に差し掛かった頃に撮られた作品。小林旭松方弘樹のダブル主演に、東映プログラムピクチャーの常連が加わって、しかも監督は『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』の牧口雄二! 丁度『仁義なき戦い』の後とあって、出演者の広島弁もすっかり板につき、ネイティブの私が聞いても何の違和感もない完成度。本来は『仁義なき戦い 未来編』の可能性も秘めた本作は、同じく松方弘樹御大主演の『脱獄広島殺人囚』と並び、東映実録路線では僅か2本しかない「広島」タイトルの映画で、ある種実録ヤクザ映画では「広島」がブランド化されていた頃の徒花のような作品の一本でもある。まあ、タイトルの『広島』『仁義』からして、『仁義なき戦い』の柳の下のドジョウを狙った企画であることは明確だけど(;^_^A

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 物語は、出所した松方弘樹が、一時は内縁の妻のため堅気になることを決意し、妻の兄であり、かつて共に関東連合と闘い、今は連合会のリーダーとなった小林旭からの組再興の打診をことわるものの、自らのシノギのため、同じ抗争仲間で、広島所払いとなった室田日出男の元に転がり込み、総会屋として新たな一歩を踏み出す、といった具合に展開していく。しかし、総会屋として仕掛けた相手のバックに、かつて彼らが追い出した関東連合がついていて、その収拾に小林らが乗り出すことから、話は複雑になっていく。関東連合に脅され、自らの保身のため小林らの連合会に寝返った仲間の地井武男を取り戻すべく、「所払い」の禁を破ってまで広島に舞い戻った室田は、小林の舎弟である夏八木勲の手によって無惨にも殺されてしまう。そのことに激怒した松方は、小林相手に堅気の件の反古と、一度は断った組再興の件を、連合会入りを拒否する形で強行する旨を伝える。その為、彼らの興した組とその構成員は、連合会から命を狙われることとなる……

 タイトルにある『人質奪回作戦』とは、劇中クライマックスに、松方らによって総会屋の地井らが誘拐され、それを連合会が奪い返す、という一シーンのことを言っているのであって、まさに後付のようなサブタイトルだ。結局、その奪回作戦は成功し、組が壊滅的打撃を受け、一人になってしまった松方は、連合会相手に捨て身の闘いを挑む。そして、夏八木など、連合会の数多のメンバーと差し違えるものの、本丸の小林に一太刀も浴びせることなく、連合会の一斉射撃によって文字通り駒のよぷな“死のダンス”を演じて果ててしまう(ここら辺りは、『真田幸村の謀略』のラストにおいて、幸村演じる松方が、同じ演技を繰り広げていた)。

 この映画は、それまでの実録路線を踏襲しつつ、3人のヤクザ(小林・松方・室田)の悲しい友情や、淡いラブロマンス、そして「総会箭」という新しい切り口を交えたものの、「いつもの」展開で無難な作りになっている、といえる。ラストの後味の悪さ、カタルシスのなさも、まさに『仁義なき戦い』おなじみの世界観。そういえば、松方の舎弟の三上真一郎が、妻の出産直前に憤死する、という暴力アクション映画ではお約束の展開(香港ノワール男たちの挽歌Ⅱ』でレスリー・チャンも体験済み!)もあったよ(;^_^A

 また本作は、達者な広島弁のみならず、原爆ドームを中心とした1975年当時の広島の風景をふんだんに盛り込み(といってもドラマ部分の殆どは京都で撮ったろうけど……)、連合会の事務所の窓には常に原爆ドームのシルエット(何故か縦長?)が写っている(位置・角度的には、かの悪名高き「折鶴タワー」の辺り)という、徹底した広島ぶりを表している。しかしそれは被曝平和都市の広島ではなく、飽くまで「実録映画のメッカ」としての広島をリスペクトしているに過ぎない(こんなんだから、未だに原爆ドームの俯瞰映像を見ると実録ヤクザ映画を思い出してしまうヾ(--;))

 松方の妻であるヒロイン役は、70年代東映プログラムピクチャーの徒花・中島ゆたか!(『トラック野郎』の初代マドンナ!) 他にも川谷拓三(今回も“安定の”やられっぷり!)・片桐竜次今井健二(『蘇る金狼』!)・遠藤太津朗・三上真一郎・西田良(猿人バルー!)といった、東映実録路線の残滓ともいうべき俳優が百花繚乱の如く活躍している。そしてダブルヒロインとして『吸血鬼ゴケミドロ』の佐藤友美が絡んでいるのも注目である(;^_^A

 ちなみに本作の広島ロケが行われたであろう1975年には、丁度同時期、かの出色の“原爆童話”『ふたりのイーダ』のロケも行われていたはずで、あの広島が一番熱かったカープ初優勝の喧噪の中で、この広島を舞台にしながら対極に位置するであろうこの両作品が撮影されていたことを思うと何とも感慨深い。時代背景故か、劇中ピンクレディーのデビュー曲『ペッパー警部』が流れるし、何といっても松方の舎弟の一人である奈辺悟が、ずっと被っているカープ帽が、赤字に白い縁取りの紺色の「C」という、1975年からの“初代赤ヘル”に採用されたタイプの野球帽(1976年まで)であるもの、時代を感じさせる。

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 そう言えば、劇中「“ホウ”洋工業」なる地元自動車会社が登場するが、そうなると、この映画世界では「広島ホウ洋カープ」になるのかなぁ……ヾ(--;)