神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

“外連味”に立ち向かう北野武

 『ソナチネ』(北野武監督)を観た。もう公開から四半世紀も経っていたのか……

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 本作で監督主演を務めた北野武ビートたけしを観ると、思いがけず色男である。単なるお笑い芸人の域を超え、映画俳優としても実に色男で存在感が際だっている。それ故、例の飲酒運転事故で生死をさまよった挙げ句、今日に至るまで、役者の“命"である顔面と、映画監督の“命”である眼に重大な後遺症を遺したことが、実に残念でならなくなった。確かに年相応に吹けてしまえばそんなに気にならないし、近作『アウトレイジ』シリーズ2作品のように、ただただ悪党を演じる上では何の問題もないんだけれどね………

 それにしても本作『ソナチネ』は虚無感に満ちあふれている。主人公のたけしは半分死人のように挙動不審な行動をとり続け、彼の舎弟はただおろおろするばかり。血なまぐさい描写とは裏腹に、何ともまったりとしたけだるい雰囲気でドラマが進行していく。ラストのカタルシスもない。チャンバラトリオの南方をヒットマン役に仕立てるほど意表を突いたキャスティングも、観ていてただやだ戸惑うばかり。これは監督の『3-4X10月』を初めて観たときの不安定感に近かった。

 北野武監督は、俗に言う“映画ドラマに於ける外連味”に全く背を向けた態度で映画制作を行っている監督だと思っている。しかしながら暗に往年の映画制作現場を否定しているとも感じられず、むしろそんなものに振り回されない自分自身のスタンス・世界観をしっかり胸に秘めている監督、というのが我が“北野武”観であったりする。
 もともと、『その男、凶暴につき』は主演オンリーだったはずが、深作監督の降板によって、急遽初映画監督を務めることになり、それがきっかけで、今日に至るまで日本の誇る名映画監督に君臨することになったんだけれど、彼の俗っぽいコントと裏腹なハードすぎるテーマで映画を撮り続けていることは賞賛に値する。

 かつて黒澤明監督の『椿三十郎』で、三船敏郎演じる三十郎が「鞘に収まっていない真剣」と称されたが、同じく俳優たけしも、そんな称号が似合いそうな、危険な何を考えているのか分からない、そんな役を熱演する、希有なタレントだと思っている。

 まだまだ現役で、目一杯変化球な映画をまた世に送り出してほしいね(;^_^A