神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

“稀代の職人”鈴木則文監督に学ぶ

 『電光石火☆八城忍』の命名の元ネタとなった『華麗なる追跡』の主人公“八代忍”だが、このネーミングに関しては、憶測ながら、当時同じ東映制作の『夜の歌謡シリーズ なみだ恋』で“八代”亜紀が主題歌の「なみだ恋」を歌い、その歌詞の中に「“忍”びあう恋 なみだ恋~♪」ってのがあったので、案外ここから「八代」「忍」のヒロイン名を、鈴木則文監督は思いついたのかも知れない(八代亜紀の次のシングルは「しのび恋」だったし……)。確かこの作品は『華麗なる~』の前年公開だったし……

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 そんな訳で、キャストのネーミングにさえ様々な憶測・妄想をかき立ててくれる鈴木則文監督だが、おそらく巷の評価は「B級」「無節操」「お下劣」等々、決して高いものではない。しかし……否、それだからこそ、鈴木監督の数多の作品は燦然たる輝きを放っているのだと私は思っている。

 後年の代表作『トラック野郎』シリーズのように、ベタでワンパターンの展開を5年間で10本も撮り挙げてしまうバイタリティーには舌を巻くし、『徳川セックス禁止令色情大名』『エロ将軍と十二人の愛妾』といった東映ポルノ時代劇から当時のにっかつに招聘されて撮った漫画原作のロマンポルノ『堕靡泥の星』に至るまで、お色気・馬鹿ギャグの中にしっかりとした権力批判を盛り込むところなど、その反骨精神には心から敬服する。

 また、鈴木監督の演出の特徴として、「スカトロ」「ベタなギャグ」といった徹底した低俗な笑いが挙げられる。それこそ「脇の下をくすぐって無理矢理笑わせる」ような力業で。この「笑い」という分野、ともすれば「感動」とか「怒り」といった感情と比べ、低く見られがちだが、実は極めて重要なもので、人間をよりポジティブに豊に導いてくれるのに欠かせない大切な“潤滑剤”だ(だからこそ、例えば、自らの体を張って人を笑わせる「お笑い芸人」は貴い仕事だと思う)。また、上映においてこの「笑い」というのは観客の満足度を測る貴重なバロメーターの一つで、実際、自作を上映する時など、自分の狙ったところで笑いを勝ち獲るのは最大の快感だったりする(^^)  人を感動させたり考えさせたりする映画こそ是であり、お笑いの映画を見下す傾向が未だ存在するのは非常に嘆かわしい(別に感動作を否定するつもりはなく、唯、どのジャンルも同等に扱ってほしいと思っているだけなので悪しからず)。

 前出のトラック野郎』・ポルノ時代劇から『緋牡丹博徒』『女必殺拳』といった任侠を含めてのヒロインアクション、馬鹿ギャグ満載の金字塔『パンツの穴』、『ドカベン』『伊賀野カバ丸』等の漫画原作もの、果ては“聖輝”の映画『カリブ・愛のシンフォニー』(これは『さびしんぼう』の併映だったんで何回も観た)に至るまで、ありとあらゆるジャンルを駆使して「大衆の娯楽」に人生を捧げた鈴木則文監督は、“稀代の職人”として日本映画史にその名を深く刻まれてしかるべき人物であるといえる。以下の氏のコメントは、私にとって座右の銘である。

「今までに、政治が、文学が、弱い人の味方をしたことがあったか!?だからせめて映画ぐらいは弱い者の味方であってもいいじゃないか、なんて言ったら格好つけすぎかな」

※ちなみに、そんな鈴木則文監督の「娯楽映画に社会批判」の精神を意識しながら今まで映画を撮ってきたが、前出の『電光石火☆八城忍』において、社会批判の部分を好意的に理解してもらった旨のレビューをいくつか拝見する機会に恵まれて、非常に有り難く思っている。