「正統派巨大女」逝く……
アニタ・エクバーグと聞いて、意外にも思い浮かぶのは『アントニオ博士の誘惑』という短編映画だ。これは『ボッカチオ'70』というイタリアのオムニバス映画の中の一エピソードで、監督はかのフェデリコ・フェリーニ。作曲もニーノ・ローダと黄金コンビ。実に贅沢な“短編”映画といえる。
主人公のアントニオ博士は禁欲主義者で、最近近所の空き地に立てられた、ミルク宣伝のの巨大看板の、横たわる肉欲的な美女の絵が不愉快きわまりない。思いあまってその看板を大きな布で覆おうとするが、ある日その覆いが取れ、あろう事かその絵の巨大女が3次元的に絵を抜き出して登場、巨大な威容のまま、博士を果てしなく追いかけていく……そんな映画と記憶している。
この作品中、アニタ・エクバーグ嬢は当然ながら“巨大女”役を嬉嬉として演じている。この当時彼女は三十路に達していたらしいが、なるほど豊満な肉体が醸し出す、色気というよりは艶というか、ある種の“抱擁感”といってもいい感覚に充ち満ちている。まさに“巨大女”にふさわしいキャラクターだったと思う。そこら辺りも実にフェリーニ的だ。
後半は殆ど“特撮”なんだけれど、同じミニチュア特撮として東宝・円谷に恥じない見事なシーンに仕上がっている。「チネチッタ」もなかなかやるじゃない、って思ったね。なんか“ぼったくる”噂が絶えないスタジオだけど……
件のエクバーグ嬢は、フェリーニに見いだされイタリアに渡るまでは主にB級映画のヒロインで(それはそれで不遇というよりは素晴らしいと思うけど……)、フェリーニとの“共同作業”以降は、あまりパッとした活躍もなく、余生を過ごしていたという。
でも私の脳裏には“正統派巨大女”として、今も印象に残っている女性だったよ……合掌。
スウェーデン南部マルメ出身。渡米して雑誌のモデルを務めながら、幾つかのコメディー映画に出演。イタリアの巨匠フェリーニ監督に見いだされ、「甘い生活」(1960年)のヒロインに起用された。エクバーグさんがローマの観光名所「トレビの泉」に入るシーンは有名な場面の一つとなった。「甘い生活」でフェリーニ監督はカンヌ国際映画祭の最高賞(パルムドール)を受賞した。(ローマ=AFP時事)