神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

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『太陽を盗んだ男』は「原爆」を手玉に取った究極のブラックユーモア超娯楽ムービー

 今、日本映画専門チャンネルで、長谷川和彦監督の『太陽を盗んだ男』を放映している。ホント久しぶりに観賞したけれど、やはり全身のエネルギーを吸い取られるような、すさまじいパワーに充ちた作品だった。

 

 例えば、黒澤明監督の『七人の侍』とか、フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』とか、ジョン・ランディス監督の『ブルースブラザーズ』とか、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』といった、「これだけの作品が撮れたら、もう映画監督として思い残すことはない」と言えるような渾身の作品があるものだが、この『太陽を盗んだ男』もそれに匹敵する作品といっても過言ではない。まあ、長谷川監督にとっては、それが現実になってしまいそうだけど……

 

 それにしても。「太陽を盗んだ男」というタイトルも秀逸な本作は、実際に「体内被曝者」だった長谷川監督が、「独力で原爆を制作した化学教師」の物語を撮るという“バックステージの凄まじさ”も去ることながら、徹底した警察批判、権力批判、そし天皇制批判を、大手東宝配給作品で謳いあげるという、破天荒なまでに大胆な手法に、拍手喝采したい思いだ。それは今回の再見で改めて感じたところだ。よく当時の右翼が騒がなかったものだとつくづく思う。ネトウヨに代表される昨今の度量の狭小な“エセ右翼”ならば、狂ったように上映阻止を企てて一台街宣を行いそうだもの。その点はまだ時代が大らかな70年代だったんだろう。

 

 

 また、今回改めて感じたのは、重苦しいテーマの強烈な作品であることは間違いないんだけれど、それでもヒリヒリピリピリするような威圧感ばかりでなく、ある種軽妙な娯楽作品としてしっかり成立している点だ。沢田研二菅原文太という異色の顔合わせ(しかも文太兄ィが東宝マークの作品に出てるし)もしっかり機能しているし、DJ役の池上季実子は究極的に綺麗だし(やっぱり石原さとみ似(;^_^A)、銃撃アクションもカーチェイスもあるし、デパート包囲シーンは圧巻の人海戦術だし、そんな雰囲気の中で、沢田研二演じる中学化学教師が自室で手製の道具を使って、史上最悪の破壊兵器である原爆を製造する過程ですら、何やらワクワクしてしまう。テンポも青春映画のようなノリで実に楽しい。ただ、放射能の恐ろしさをそこはかとなく描いているのは、やはり原爆の恐ろしさを体現している長谷川監督の良心か。

 

 

 国レベルでの所有しか考えられず、それによって核保有国として世界でイニシアチブを取れる存在である核兵器を、一個人が手に入れ、しかもテロによる国家転覆とか、ことの善悪は別としての壮大な野心を抱くわけでもなく、むしろその存在を持て余すようになる、という本作のテーマは、よくこんな物語を思いついたものだって、ただただ感心するばかりだ。

 

 とにもかくにも、究極のブラックユーモア超娯楽作品といった趣の本作を撮った長谷川監督には、何が何でももう一度メガホンを手にしてほしいが、本作を観るにつけ、それが出来ない理由も何となくわかる。