神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『新デコドラのシュウ 鷲』~剛力彩芽の新境地!~

 いかにも安っぽそうなチラシデザイン(個人的には好物!)といい、いかにも「Vシネマ」って感じのタイトルといい、、しかも主演が哀川翔(!)といい 半年も待てば「チャンネルNECO]か「Vパラダイス」か「MONDOTV」辺りで放映されてもおかしくない、この『新デコドラのシュウ 鷲』を、敢えて「月に一度は劇場で映画観賞」2021年2月の回に選んだかといえば、一にも二にも、主演の哀川翔が、かの名曲「一番星ブルース」をカヴァーして、しかもそれが本作の主題歌になっているからに他ならない。この事実を知ってから、俄然本作が観たくなったもの(;^_^A

 

 

 それというのも、この「一番星ブルース」を復活させて、“トラッカー”の物語を拵えるということなので、どうしても、文太・キンキン・鈴木則文の仲良し黄金トリオの不朽の名作『トラック野郎』の再来を期待してしまうからだ。あの、お下劣ギャグとスカトロと暴力とエロスと”思い込み”の恋愛劇と、そしてクライマックスに必ず用意された“漢気”溢れるシーンがない交ぜにぶち込まれた“玉手箱”のような、あの"トラック野郎”の世界観が、令和の時代に甦っているのではないかと……その期待にある程度は応えてくれる内容だった。

 

 哀川翔演じる主人公の飛田鷲一郎は、派手なデコトラを乗り回し、喧嘩っ早くて短絡的で、それでいて情にもろく面倒見がよく、且つ惚れっぽくて一途という、これで胃腸が弱ければ、まんま文太兄ィの「星桃次郎」を彷彿させるキャラクターだ。彼には舎弟の欽太(柳沢慎吾)とダンス勝負で打ち負かされて以来、彼を師匠と慕うヤンキートラッカーの龍太(水野勝)という取り巻きがいて、欽太に至っては、鷲一郎の妹・美里(さとう珠緒)と相思相愛の中にある。もはや結婚秒読みの状態ながら、“アニキ”の鷲一郎を差し置いて結婚するわけにもいかず、早く鷲一郎に理想の相手が見つからないかと気が気ではない。

 

 そんな折、鷲一郎は、デコトラのイベント会場でミニコンサートを行った演歌歌手の高宮すずめ(剛力彩芽)に一目ぼれ。そこで彼女のために一肌脱ごうと(ていうか彼女に取り入るために)、マネージャーの小坂(窪塚俊介)に懇願された、彼女に付きまとう実業家の千堂(五代高之)の対処に奔走する。その過程で、義理の母親の夏海(宮下順子)が鷲一郎を語る“オレオレ詐欺”に巻き込まれ、警視庁から派遣された小松原重太郎貞明刑事と共に犯人を追った彼は、その黒幕が千堂であったことを突き止め、母親を詐欺被害から守るだけでなく、“結果オーライ”でエセ実業家・千堂の排除にも成功する。

 

 その後、つばめには生き別れた実の父親がいることが判明し、その親に一目会いたいとの彼女の希望をかなえるべく、目撃情報から、鷲一郎はデコトラを走らせて埼玉県・飯能市に向かう。するとそこには、彼女のファンを公言する、霧島親分(渡辺裕之)率いる霧島組が街を仕切っていた……。

 

 一目惚れしたマドンナの生き別れた父親探しという、この手の人情ドラマにありがちな“王道展開”の下、いい意味での予定調和な物語が進行していく。一応“伏線”も張ってはあるが、それも“申し訳”程度にしかならないくらい、とにかく観る者の予想を決して裏切らない、観る側にはその次の展開が容易に判断出来る、まさに「居間で寝っ転がって観れる」ような安心感の中、登場人物だけがベタなくらい「わかっていない」ボケを繰り返す形で、物語が展開していく。しかも、そんな展開に掉さすほどの悪役も登場せず、よどみなくラストの想像できる結末に突き進んでいく。そこら辺は、『トラック野郎』のフォーマットに忠実に描かれているように思えた。また“小ネタ”も随所に込められていて、それも『今日から俺は』のような“力技ではなく、ただひたすらノスタルジックでしょうもないネタばかりだった(だからツボにはまる!)ので、結構劇場内でクスクスやってしまった(;^_^A  だが反面、物足りなさもあった。それは”下品さ”に欠ける演出にあったと思う。その点はオリジナルの鈴木則文監督の演出に軍配を挙げざるを経ない。『トラック野郎』(ていうか鈴木則文監督演出)の大切な要素である“スカトロ”に関しても、一応霧島組が作った賭博体験テーマパークで壺を振る女賭博師が、前日喰ったサバが当たって便所に駆けこむというシーンがあるが、その演出にねちっこさは感じられず、ただ単につばめに壺を振らせる口実にしかなっていない。このことに限らず、猥雑さもなく全体的にことごとく“小綺麗”なのだ。またアクションという点においても、ドライブインを舞台に文太がライバルと延々闘い続けるようなシーンも、失恋によって開き直った主人公が、一度は愛した女性のために危険な走行をするという“漢気”溢れるオリジナルの“肝”のシーンも、本作には登場しない。っていうか、主人公が“トラック野郎”でなければならない必然性もイマイチ感じられなかった。こういった“外連味”に関して、前述のように物足りなさを感じたのである。

 

 そんな中、実によかったのが、すずめ役の剛力彩芽だった。変な話、本作を敢えて劇場で観賞料払って観ようとしたもう一つの要因は、本作に“あの”剛力彩芽が出演しているという事実が、ある種“保険”のように思えたことだ。『ガッチャマン』『清須会議』『黒執事』といった大作に出演し、且つ億万長者の彼氏を持つ“セレブ系”の彼女が、こんな、といっては失礼だが、低予算のVシネマのような本作に、それも“泥臭いドサ周りの演歌歌手”というらしくもないキャラクターで出演するなんて、まるで『魔人ドラキュラ』で名を馳せたベラ・ルゴシが、晩年“サイテー”映画監督・エドウッドJrの作品に出演したような違和感を覚えた。しかし、そんな外野の不安をものともせず、本作における剛力彩芽の表情・演技etcが実に素敵だった。普段の演技というよりも、『アンビリ』でバナナマンの二人と気の置けないトークを展開する彼女のイメージそのままに、底抜けに生き生きしていた。いつものクールビューティとは異なる、実に可愛らしくて“人間臭い”剛力彩芽の姿を拝見できただけでも、本作を観た価値があったというべきかもしれない。

 

 

 彼女以外にも、キャスト陣は先に掲げたように、我々の世代からすれば実に豪華で、得意の刑事ドラマネタを披露する柳沢慎吾に、『太陽戦隊サンバルカン』『軽井沢婦人』の五代高之、この手のB級邦画には欠かせないバイプレーヤーの渡辺裕之、「ずうとるび」の江藤博利、『東京SOS』『魁!!クロマティ高校』『少女は異世界で戦った』(!!)の金子昇、そして伝説の”ロマンポルノ”女優・宮下順子(!)、更には「一世風靡」において哀川翔の“舎弟”だった「CHA-CHA」の勝俣州和といった面々がずっしりと脇を固めている。また先に、引退を宣言していたはずの岩佐真悠子(『009ノ1 THE END OF THE BEGINNING』)もド派手な婦人警官で登場するし、あの“尖がった”窪塚兄弟の窪塚俊介が、アブラギッシュな七三マネージャーをとぼけた味で演じているのも印象的だった。みな今の時代からチョッピリずれた存在だけに、逆に自分の感性には“直球ド真ん中”のキャスティングで、なかなか味わいがあった。気が付けは、彼ら彼女らは、実は哀川翔ではなく剛力彩芽の乗った神輿を担いで八面六臂の活躍を魅せる、そんな映画だった。

 

 もしDVDを発売するのならば、ぜひメイキング映像を特典にしてほしい。本編のみならず、舞台裏も結構楽しそうだから(;^_^A  剛力彩芽にはこれを機に、新境地を開拓してほしいな(;^_^A

 

 それにしても、今回の観賞は封切2日目にして初の週末興行だったのに、観た回の入場者は私を含めたったの3人!( ゚Д゚)( ゚Д゚)  ねえ、みんな観たってやぁ!!!