方言と“広島発インディーズムービー”
近年は“広島発ヒロインアクションムービー”と称して、地元・広島をアピールした映画制作を行っている……とはいうものの、平和公園でロケをした『令嬢探偵★モロボシアイ』、消滅する直前の旧広島市民球場で撮った『天使諜報★神宮寺真琴』、呉市の有名な観光スポットで撮影した『特命探偵☆葛城アキ』を除き、“広島発”と胸を張ってアピールできるだけのものがあったわけではない。しいて言えば、登場人物が広島の方言(それもほぼネイティブ)の台詞を話すくらいだ。
私が制作・監督した映画の中で、初めて登場人物に広島弁を喋らせた作品は、第6作の『シューリンクス』から。もっともその時は被爆死した少女の精霊と他のキャストとの差別化から、あえて方言の台詞にしたに過ぎない。続いて第10作の『思い出はあしたから』では、全編登場人物の全てに広島弁を喋らせた。この時初めて「オール広島弁の広島発ムービー」を意識して台詞を考えた。今までかしこまって標準語を喋っていた自作映画のキャストにいきなり広島弁を喋らせたので、若干の違和感があったが、劇場映画やドラマで関西弁や九州弁の台詞がごく自然に使われていることを観るにつけ、広島弁が自然に使われる映画があってもいいのでがないか、と常日頃から考えていたので、この映画は一つの“実験”としては有効だったかもしれない。実際本作は「ひろしま映像展」で入選を果たしたし、それが縁で初めて他県の上映イベントに出品のオファーをいただいた作品となった。
その後、第12作の『むてっぽう。』や第15作の『AGAPE』で同様に“広島弁オンリー”の作品を作り、その流れで“広島発ヒロインアクションムービーの制作に取り掛かることとなる。
ご存じのように、広島弁といえばまっさきに『仁義なき戦い』に代表される実録映画・仁侠映画といったものの中に登場する、実に攻撃的で荒っぽい言葉のイメージが浮かんでしまいがちだが、近年スマッシュヒットを遂げたアニメ『この世界の片隅に』で出てきたように、女性の優しく人懐っこい台詞としても実に印象的である。個人的には若い娘がはにかんで「うち」と自称するシチェーションが一番素敵だと思っている。
最近、広島はロケ地としてもてはやされるようになり、そんな中、『鯉のはなシアター』『恋のしずく』『おかあさんの被爆ピアノ』といった広島舞台の“広島ムービー”が立て続けに全国展開で上映されるようになってきた。また、ドラマ『ワカコ酒』や草彅剛主演の映画『ミッドナイトスワン』のように、ロケ地やストーリーに関係ない“裏設定”で広島が扱われる(主人公の出身地とか)ことも多くなった。いつの間にか、広島も特殊な一地方都市ではなく、大阪や名古屋や福岡のように、普通にドラマ・映画に登場する街・人になっていったようだ。
それ故、先だってのリモート配信イベントで流したオープニング映像にも出てきた「広島から全国へ」を意識している当映画制作団体としては、これからも、敢えて広島の方言に拘った映画作りを目指していきたいと思っている。そしていつかは“荒っぽいヤクザ言葉”ではない広島弁を全国の人に認知してもらえたら、と願っている。