神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『ビューティフルドリーマー』 ~我が学生映画時代追体験~

 元々『ビューティフルドリーマー』(『本広克行監督)は全くの“ノーマーク”な作品だった。たまたま以前シネコンに足を運んだ時、他の作品と共にチラシはもらっていたんだけどね。それが、フォロワーのびっぐぴゅあさんのブログ記事(レビュー)を読んで俄然観たくなり、急遽”月に一度は劇場で映画観賞”11月分として、先月件の広島バルト11に行って観賞した次第。しかもその時すでに朝8:40からの一日一回限りの上映だったから、ホントギリギリの観賞だったよ(;^_^A そして本作に“弩ハマリ”してしまった(;^_^A

 

 

 先勝美術大学映画研究部は、〝映研”とは名ばかりの、学祭にも参加しない、文字通りの〝幽霊”サークル。そんな映研の部室から、かつて活動が活況だった頃のものと思われる手書きの脚本と未完成の16ミリフィルムが発見される。映研OBでプロの映画監督であるタクミ先輩から、「それは撮影とすると決まって妙なトラブルが発生して完成に至らない曰く付きの作品」と知らされるが、部員のサラはその作品に強く惹かれ、自ら監督となっての演出を決意、〝ゆでガエル”な部員たちを焚きつけて、本作『夢見る人』の制作をスタートさせる。サラ以外の5人のメンバーがプロデューサー、撮影、録音、衣装メイク、助監督を担当し、キャストはオーディションで決め、いよいよ撮影を開始。果たして彼女らは、この曰く付きの作品を完成まで漕ぎ着けられるのか………これがストーリーの概要である。

 

 本作のスチールの中でも、一番素敵な一枚。何とも和気あいあいとして、しかもノスタルジック!(;^_^A

 

 本作の特徴は、登場人物が全て実名(芸名)で出演している点である。更に言うならば、主人公サラ役を務める小川紗良は、早稲田大学映研出身で映画監督も務めていて、まさに劇中のサラそのものである。またタクミ先輩役の斎藤工も、俳優である以上に映画に精通していて、実際に監督作品も世に送り出している。作品にキャスト参加する升毅もまんま実際の役者マスタケシとして登場する。このように名前のみならず、キャストが皆、〝自分自身を演じる”というナチュラルな同一感が図られているのが特徴的である。

 

 

 劇中、映研部員が完成に向けて奔走する未完の作品『夢見る人』は、本作のタイトルでもある『ビューティフルドリーマー』から来ている。我々の世代からすれば、〝ビューティフルドリーマー”とくれば、当然押井守監督の『うる星やつら ビューティフルドリーマー』がまず脳裏に浮かぶ。そしてこの作品はアニメ史に残る稀代の名作として、前作『オンリーユー』より支持されている。これは『カリオストロの城』『男たちの挽歌Ⅱ』『ランボー2怒りの脱出』『ターミネーター2』『エクスペンダブルズ2』『ガメラ2レギオン襲来』『ゴジラvsビオランテ』といった〝名作シリーズは2作目が面白い”法則に則っているんだけれど、そんな『うる星やつら ビューティフルドリーマー』に押井監督自身がインスパイアされて書き下ろした脚本が、今回の『夢見る人』というのも、何とも興味深い。しかも、映研の撮影を通じて、劇中映画の出演者たちがあたかも『うる星やつら』のコスプレのごとき衣装・格好で登場するのは、まるで『うる星やつら ビューティフルドリーマー』の実写版を目指しているかのようだ。

 

 ところで、私が本作に“弩ハマリ”してしまったのは、本作の映画研究部の苦闘に、我が学生映画時代の思い出がシンクロしてしまったからだ。これは先日のブログでしたためたが、私も学生時代、美大ではないが学内に併設されていた美学科の映画論なる講義を“越境”して聴講し、そこで8ミリによる映画制作を体験した、という思い出がある。それ故、本作の美大映画研究部という設定に強く惹かれたのである。これは映画を撮り始めるまで写真撮影が趣味だったんで、その当時、同じ一眼レフを趣味とする主人公の物語『さびしんぼう』に痛く共感した時に似ている。先勝美大映研部室の雰囲気も、当時映画論受講学生の“たまり場”と化していた衛藤研究室、通称“エトケン”の雰囲気にそっくりで、観ていてあたかも30周年前の自分を追体験しているような感動を覚えた。ただ発見された未完のフィルムが16ミリではなく、我々の世代の8ミリフィルムだったら、もっと良かったけどね(もっともフィルムであるだけでも感動ものだったけど(;^_^A)

 

 だから、本作の舞台は実にノスタルジックな雰囲気で観ることができた。まるで本作の舞台が“昭和”であるかのように。もっとも、劇中超大物俳優・マスタケシが本作に参加したのは、部員の一人がUberのバイトでたまたまマス宅に配達にいったのがきっかけだった、という辺りには、現代性を感じさせる。ノスタルジアと現実が、巧妙に混ぜられた見事な演出だといえる。

 

 ところで、タクミ先輩の忠告通り、作品制作には様々なトラブルが発生し、挙句には主要キャストも兼ねたポロデューサー・リコの謎の失踪によって、制作は頓挫する。結局ラスト、件のリコは戻ってきて、そレで残されたシーンの撮影が始まったところで、本作自体はラストを迎えるんだけど、やはり劇中作品の完成こそが本作のカタルシスだったと思うので、監督やスタッフの意図はどうであれ、こういう形でエンドマークを迎えるのは、いささか消化不良の感は否めなかった。またこのメンバーで続編的な作品が作られるならば、話は別だけどね(;^_^A

 

 そうはいっても、私にとって学生の頃の映画制作時代を追体験できるような、素敵な本作には大いに感動した。古くて新しい……否、新しいけど郷愁をそそる、本作のようなそんな作品が今後数多く制作されることを祈念して止まないし、我々もインディーズのカテゴリーでそんな映画を撮っていきたいと、改めて感じたね(;^_^A