神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

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『映像研』に『手を出』した! その② ~観賞レビュー「不条理劇が愛くるしさに変わる時」~

 “映像研”というタイトルといい、乃木坂46の綺麗どころ3人を主人公に据えたキャスティングの妙といい、早くから興味・関心が尽きなかったのが、「月に一度は劇場で映画観賞」の9月作品に選んだ『映像研には手を出すな!』だった。このタイトルとキャスティングから、健気な女子高生3人が、紆余曲折を経て一本の素晴らしい映画を完成させる、それこそ『スゥイングガール』(吹奏楽)や『幕が上がる』(演劇)のようなノリの「高校文化系クラブ“スポ根”映画」の、ついに登場した“映研”編だと勝手に想像していた。しかし、確かに「『映像研』所属の女子高生が映画を創る」話ではあるんだけど、その主題以外は、私の想像をはるかに超えた“ぶっ飛び”映画だった。

 

 芝浜高校に入学した、アニメ映画を演出することを夢見ながら“超”がつくくらい引っ込み思案な浅草みどり(齋藤飛鳥)、俳優一家に生まれ自らも美人のカリスマ読者モデルながら、実はアニメーター志望の水崎ツバメ(山下美月)、そして、みどりと中学からの同級生だが、彼女とは裏腹に商才(損得勘定)やマネージメントに長けた金森さやか梅澤美波)の3人が、新しい部活「映像研」を立ち上げ、同会としての認可を勝ち奪ったり、クラブ統廃合の危機を乗り切ったりしながら、最終的に部費獲得のため文化祭で発表するアニメ映画を完成・上映させる、というのが大まかなストーリーで、今回の映画で描かれたのは、部統廃合の危機から無事アニメ映画を上映、好評を博すまでの後半の部分だった。

 

 実は、前半の3人の出会いから同好会認可までのストーリーは、メディアミックスの一環として同一キャスト出演で制作され、既に放映された全6話によるTVドラマで描かれていて、それに関しては今回の観賞前にチェックしていた。しかしながら、それは私が想像していたイメージと、あまりにもかけ離れていた。

 

 まず、舞台の芝浜高校の設定からして、尋常ではない。校内には413のクラブと72の研究会・同好会が犇めいているというカオスな状態。そんな部活動を総括するのが、大・生徒会なる生徒の自治組織。クラブ予算から統廃合にいたるまで全ての権限を持つ大・生徒会と「映像研」との対立が物語の柱となるのだが、この大・生徒会ってのが、常軌を超える程の校内の権力集団で、しかも、どうも会長の道頓堀透(小西桜子)を筆頭に「映像研」を目の敵にしている節があり、その高圧的ないやがらせも常軌を逸していた。また、主人公の3人も、特にメインの浅草みどりのキャラクターが、こちらの感情移入を拒むくらいぶっ飛んでいて(演じる斎藤飛鳥は3人の中でも売れっ子のはずなのに……)、それにほかの二人(特に金森さやか)が振り回されるようで、その辺りを描いていたTVドラマを観て、一時は本作を劇場で観賞するのを躊躇したくらいだった。

 

 さて、映画の方は、「映像研」の認可後から始まるんだけど、冒頭、何故か大・生徒会による「気象研」への“ガサ入れ”から物語はスタートする。そこから逃げ出した晴子が、激しい雨の降りしきる中、下駄箱で雨やみを待ちながらとある生徒から体験談を聞かされるシーンで、前述のTVドラマのストーリー(同好会新設の聴聞会で、大・生徒会の面々を向こうに回し、引っ込み思案のみどりが精いっぱいの啖呵を切り、認可させるまで)がダイジェストで流れる、というテクニックで、ドラマを観ていない者にも物語世界にスッと入れるような演出がなされている。ここで晴子を演じるのは、今ドラマCM界で引っ張りだこの浜辺美波。しかし、本来ならば主役クラスの彼女が、本作では殆どドラマに絡まず、出演シーンもわずかな晴子を演じているのは、意外というか実にもったいなかったように思えた。

 

 それから、上記の回想シーンに登場したみどり、ツバメ、さやかの3人が、立ち上げた「映像研」の統廃合の危機を逆手にとって、さやかの機転もあって自ら「ロボット研」と手を組み、ロボットアニメの制作に乗り出す。当初はそれをソフト化してコミュケで販売し部費獲得を目指すが、学校(教員)サイドの“横やり”によって、コミュケ参加を断念。そこから文化祭での上映によって大・生徒会から部費の増額を勝ち奪る作戦にシフトしていく。しかしさやかの打算とは裏腹に、演出のみどりも、アニメーターのツバメも、条件ばかりを要求して、一向にアニメ制作に身を入れない。期限が迫る中、業を煮やすさやか……そんな形で物語が進行していくんだけど、そこら辺りの前半の場面の記憶はどこか曖昧だ。

 

 それというのも、当日は仕事帰りで遅い回の観賞であり、しかも軽めの夕食と思いマックバーガーとアイスコーヒーのSを観賞前に摂ったことが仇となり、しかも前半の主人公たちのモタモタぶりからくるいらだたしさから物語に没頭できなかったことも手伝って、前半はついうつらうつらしてしまった( ノД`)  映画館でうとうとしたなんて、それこそ林海象の『ジパング』を観て以来の愚行だ(その前は学生時代に観た、ゴダールの『気狂いピエロ』と『カルメンという名の女』の2本立て(;^_^A)。ああ、何とも情けないよヾ(- -;)ヾ(- -;)

 

 ただ、後半への橋渡し的な時間帯で、それまで一人イライラし徒にみどりやツバメの尻を叩いてばかりいたさやかが、そのマネージメント能力と行動力を駆使して、2人の理不尽な要求や、文化祭参加によって急遽浮上した上映会場問題を、2人が知らぬ今に一気に片付けて、彼女らのやる気に火をつけるシーン辺りから俄然面白くなってくる。実はこのシーン、会食する2人の許に疲れ切った表情のさやかが現れ、諸問題が解決したことを告げてその場で仮眠をとるわけだが、これって黒澤明監督『七人の侍』で、居合の達人・久蔵(宮口精二)が夜半単身野武士の砦を襲って「種子島」を奪い、翌朝涼しい顔で戻ってきて、驚く皆の前で仮眠をとるシーンにシチュエーションも仕草も雰囲気もそっくりだ。そう考えると、本作には結構往年の名作のオマージュがふんだんに散りばめられていて、冒頭の雨やみのシーンはいかにも『羅生門』(黒澤明監督)であり、劇中突然何の脈略も伏線もなく、みどりがいきなり広島弁(それもかなり荒っぽいもの)でまくしたてるシーンも、実は『仁義なき戦い』(深作欣二監督)の広能(菅原文太)へのオマージュと考えれば合点がいく。流石「映像研」の名に恥じない演出だ(;^_^A

 

 それまで挙動不審な行動ばかり取っていたみどりとツバメにようやくエンジンがかかり、彼女らの制作するアニメ映画も後は完成を待つばかりとなったが、前半のもたつきぶりが影響して、とても期限の文化祭当日に間に合いそうもない。そうなると、世の文科系クラブ生徒の多くが文化祭前の土壇場でそうするように、前日より学校に残って徹夜で作品を仕上げようとする。しかしそうはさせじと、道頓堀率いる大・生徒会は、多くの忠実な生徒を警備員然とさせ、各クラブが居残って作業できないよう、徹底的な監視をする。途中「この大・生徒会の監視行動も、徹夜の部活とおんなじじゃないか」と身内から指摘されるものの、会長の道頓堀は動じない。居残りクラブを片っ端から検挙し、ついに「映像研」にもその魔の手が伸びる。ついに大・生徒会きっての武闘派・阿島九(福本莉子)率いる舞台に囲まれる映像研の三人。まさに万事休す………でも翌日、無事映画は完成する。そこのいきさつは本作の中でも一番のシークレットだからここに書かないけど……「身代わり部」がいい味出してたよ(;^_^A

 

 不思議なもので、前半あれだけぶっ飛んでいて感情移入が出来なかった3人も、ここら辺になると実に愛らしく見えるようになってきた(;^_^A やはり3人(特にクリエーターの2人)に火が付いた辺りが一つのきっかけになったようだ。しかしまだまだ物語は一筋縄ではいかない。冒頭の「気象研」ガサ入れ時に、唯一逃げおおせた部員の晴子(浜辺美波)が手にした箱の中には、何故か小型の台風が入っていて(?!)、彼女の手によって解放された台風は世界各地で猛威を振るうこととなる。その結果、「映像研」顧問の藤本(高嶋政宏)は異国の地で足止めを喰らい、ツバメの両親は海外行きがキャンセルとなり、急遽娘の文化祭に顔を出すことになる。前者は藤本が上映会場のカギを持ったままで帰国できず、会場に入場できないという事態を呼び、後者は、来場によって親から固く禁じられていたアニメ制作を娘が行っていたことがバレる、という事態を生むのである。窮地に陥った「映像研」の3人………。しかし会場の方は、大・生徒会のメンバーでありながら何故か彼女らに助太刀したさかき・ソワンテ(グレイス・エマ)に扉を破壊してもらって事なきを得、アニメ上映そのものも、クオリティーの高さにツバメの両親もツバメの行動を認めるという形で大団円を迎える。なんだかクライマックスからラストに向かって、実にほんわかした雰囲気に包まれていたよ(;^_^A

 

 決して等身大の物語ではなかったけど、最終的には登場人物、とりわけ主人公の健気さが伝わってきて、実に爽やかな作品だった。それにしても、アニメ映画演出、要は「監督」のみどり、セル作画、要は「撮影」のツバメ、そしてそのものズバリの「プロデューサー」のさやか、というトリオは、映画制作としては理想的な構成だ。原作の展開は知れないけど、この3人がどんどん映画を撮っていく、なんてサイドストーリーも期待したいな(;^_^A  そういえば、個人的には「プロデューサー」のさやかに一番感情移入したかもしれない。それ故モゾかしいシーンも数々あったけどね(;^_^A

 

 

 こちらが本作のパンフレット。流石に1,000円は高かったなぁ……内容も映画の解説というよりは、乃木坂の3人中心の構成だった。彼女らのファン位は堪えられない構成なんだろうけど……でもamazonではこれに1,800円の値がついていたよ(゚д゚)!