『れいこいるか』観賞記③ ~魅惑のトークショー かけがえのない時間~
『れいこいるか』の上映直後、本作の監督を務めたいまおかしんじ氏と、劇中太助に卓球を教える少年の母親役で出演した、次回この横川シネマ!!で公開される(それ故上映前に予告編が流れた)『東京の恋人』にも出演している西山真来さんによるトークショーが、横シネ支配人の溝口徹氏の司会で行われた。今回の上映に参加したのも、このトークショーがお目当てだった(;^_^A
いまおかしんじ(今岡信治)監督に関しては、そのフィルモグラフィーにピンク映画が多いせいか、今まで名前は存じ上げていたが、作品を観賞したのはこの『れいこいるか』が始めてだったかもしれない。もっとも、結婚後はすっかり足が遠のいてしまったピンク映画だが、かつて横シネがピンク専門館だった頃の90年代は何度も足を運び、濡れ場を除いたらそこに“昭和映画”の佇まいが残っていることに感激したのを覚えている。まるで絶滅したと思っていた恐竜が始祖鳥を通して鳥類に進化していたことを知った時のように。何といっても横シネは新幹線や山陽本線のガードに隣接していて、『痴漢電車』上映時に劇場も揺れるという“バーチャルリアリティー”を味わえる映画館だったもの(;^_^A(最近は防音工事がなされたのか、そんなことはなくなったが……)。
溝口支配人の軽妙かつバランス感覚に充ち満ちた司会ぶりにより、ゲスト二人の軽妙なトークが展開した。いまおか監督からは、本作のプロデューサーである朝日映劇の川本じゅんき氏との出会いから映画制作に至るまでの過程や、予算内で神戸ロケをするための苦労、また物語の中心となる伊智子の実家の酒屋のロケ地が日曜しかロケ出来ないためにキャストの人選に苦心したり、結果春夏秋冬の神戸でロケが出来た話などが出てきた。その神戸ロケのためのキャスト人選に一役買ったのが、関西・京都在住の西山真来さんで、彼女の紹介で伊智子役に武田暁が決まったことや、武井暁が演劇畑の役者だったために映画の現場ではいろいろ苦労した、というエピソードもあった。西山真来さんは、自分が演じる卓球少年の母親役がDV夫に暴力を受ける役柄と聞いて、控えめで薄幸なイメージで役作りをしていたのに、現場で演出によって、片目に眼帯して煙草をふかして尻にべったり土のついたような豪快な役柄に代わっていたことを語り、いまおか監督の演出の妙を赤裸々に語っていた。監督と西山さんのやり取りも実にほのぼのとしていて、制作現場の団結ぶりをうかがわせる雰囲気だった。
いまおかしんじ監督
西山真来嬢
そんないまおか監督の言葉で特に印象に残ったのは、バレーボールに例えるならば、監督はトスを上げる立場で、それをスタッフやキャストがどうやってスパイクを打つのかってのが映画の現場である、という言葉だった。私も自主とはいえ映画監督の端くれだが、自分の現場ではともすれば、自分でトスを上げて自分でスパイクを打つようなことばかりしていたような気がして、監督の言葉は強く心を打った、というか肝に銘じるような響きがあった。また、これは既に『れいこいるか』に関係するネット上の記事で拝見していたものだったが、本作はずっと前から温めていた企画で、今回の制作前にも、一度ピンクのカテゴリーで制作を考えてこともあった、という話も聞いた。以前、これも日活ロマンポルノでデビューした金子修介監督が広島でロケした『こいのわ 婚活クルージング』が、主人公が各見合い相手とその都度情交に及べば立派なピンク(ロマンポルノ)映画になると指摘してくれた映画仲間がいたが、本作も伊智子と毎回変わる不倫相手、再婚相手、そして元夫・太助との情交シーンを定期的に織り込めば、確かにピンクの枠組みでも実現可能だった企画だったかもしれない。実際、過去観終わって胸にぐっと迫るピンク映画もあったから。もっとも、今回ばかりは一般映画のカテゴリー(とは言って冒頭に伊智子と不倫相手の濃密な情交シーンはあるが……)で制作されてよかったと思う。それによって観賞対象が限定されずに済んだから。
さて、一連のトークショーが終わり、観客からの質問コーナーとなったが、その時僭越ながら一番手としていまおか監督に質問させていただいた。その内容は、劇中一度は視力を失いかけた伊智子が、あるシーンから急に運転免許が取れるまでに視力を回復したので、その間何が起こったのか、というものだった。それに対するいまおか監督の回答は、「理由もなく失明しそうになったんだからその逆もありうる」というもの。まあ、自らも緑内障を患う身としては、視力を失うという命題は身につまされる深刻なテーマ故、理由が何であれ伊智子の視力が回復する設定は嬉しいものだったんだけど、私の中では、「最後、伊智子が視力を失った」という前提でもっと違ったラストを想像していた。最後の水族館のシーンで、伊智子が見ず知らずの女性に「れいこ! バイバイ」というシーンがあるのは予告編で知っていたが、自分なりにそれは「視力を失った伊智子の“心の眼”には、そこにいるれいこの霊が見えた」というクライマックスだと思い、勝手に感動していた。それ故、実際は卓球少年の彼女の名がたまたま「れいこ」だったんで、その子にれいこへの思いを託しての「れいこ! バイバイ」ってクライマックスには意表を突かれたが、それはそれとして、変なファンタジー性を排除した、でも伊智子のセンシティブな心が衝き動かしての言動であるこの演出の方が、本作の一連の流れにマッチしていたと思う。いずれにしても、監督自身がベストだったと評価するこのカットは、実に癒される感動的な場面だった。
トークショーも終わり、今回の作品のグッズといえるポストカードと、監督の奥方が手作りで刺繍した『れいこいるか』オリジナルTシャツをゲットして(あいにくパンフはなし)、図々しくもいまおか監督と西山さんにサインをおねだりしてしまった(;^_^A その際、いまおか監督にプロデューサーの川本さんとmixiを通してお付き合いしていて、彼のメールで今回の上映会に参加したことを告げると、明日(13日)に神戸で彼と会うのでそのことを話そうといってくださった。そこで、名刺を渡してよろしく、とお願いした。もしかしたら、もう今頃監督は川本さんとお会いしているかもしれない(;^_^A でもこのことを監督に話せて、且つ監督も反応してくださってよかった(^^)
劇場での唯一のグッズである『れいこいるか』ポストカード
いまおか監督の奥方が“夜なべ”して刺繍した『れいこいるか』Tシャツ
裏側にはしっかり『れいこいるか』のロゴか……!
何はともあれ、素敵な土曜日の夕刻~夜だったよ(^^) それはそうと、『れいこいるか』は今月21日まで公開なんで(今日までは18:40~、明日から21日までは21:10~)、近郊の方々是非横川シネマ!!に足をお運びください!(;^_^A