神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『犬神の悪霊』

 2020年11月16日。この日はCSのチャンネルNECOで、“幻の作品”と言われた『犬神の悪霊』(伊藤俊也監督)が放映される日だ。ずっと以前から期待して待っていたので、録画はしつつも、オンタイムで観賞した。観賞後の率直な意見は、「A級な不条理劇をB級テイストで描いた」という印象だ(※以下ネタバレあり)。 

 

 大和田伸也演じる主人公のウラン技師・加納は、同僚の安井(『ワイルド7』の飛葉チャンこと小野進也!)・西岡(畑中猛重)と共に、ウラン鉱脈を探してとある寒村に訪れ、そこで全裸で川で戯れる麗子(「ロマンポルノ界の百恵ちゃん」こと泉じゅん!)とかおり(『番格ロック』の山内恵美子!)を目撃する。その後彼らは待望のウラン鉱脈を発見するが、その際、安井は犬神の祠をジープで蹴散らしてしまい、後を追ったかおりの弟・勇(加藤淳也)の飼い犬を轢き殺してしまう。そしてうろたえる安井に代わって加納がハンドルを握ったところに勇が駆けつけたため、彼は犬や祠を轢いたのが加納と思い込んでしまう。

 

 その次のシーンでいきなり加納と麗子の村での祝言のシーンが映し出されたので面を喰らった。それまで二人のプロセスが全く描かれていなかったからだ。しかし、観客(そして視聴者)の戸惑いも関係なく、二人はそのまま家族と共に、加納の就職先で披露宴を行うために、車に乗って東京へ向かう。その車を追って麗子との別れを惜しもうとする親友のかおり。しかし彼女のために停車することを許さない麗子の父・剣持剛造(鈴木瑞穂)。そこでかおりの一家が犬神に祟られていると村八分にされていることが知らされる。ところで、彼らの乗る自動車は何故か大分ナンバー。え、そうだったの? でも原作本もないのに何で? 別に伊藤監督の故郷でもないのに……? まあ個人的には大分は“第三の故郷”なんで普通に嬉しかったけどね(;^_^A

 

 東京での披露宴の最中、同僚の安井が突如発狂し、その挙句、(おそらく)新宿副都心のビルの屋上から転落死を遂げる。また西岡も、加納の眼前で野犬の群れ(といってもシェパードの群れだったが)に喰い(嚙み)殺されて命を落とす。その頃から加納の新妻・麗子も犬神が取り憑いたかのような奇行を繰り返し、医療機関にかかっても埒が明かず、やがて加納と共に大分の実家に戻るこ。そこで彼女は怪しげな祈祷師や村人たち、そして彼女の家族や加納自身による悪魔払いの儀式を受けることになる。この一連の祈祷の中で印象深いのは、何故か横たわる麗子の体に無数の握り飯をこすりつけて犬神を追い払おうとする、全く以て意味不明の行為だった。皆が真剣なだけに、何ともシュールなシーンだったが、白と赤の巫女衣装を身に纏い、太腿もあらわに横たわり、“握り飯攻撃”に身もだえる泉じゅんの姿は何とも艶めかしい。そういえば、冒頭の泉と山内恵美子が全裸で川で戯れるシーンを筆頭に、乳房が惜しげもなく露出するシーンが前半はやたら多く、あたかも本作は日活ロマンポルノや東映ポルノの系譜では?、って勘ぐってしまうぐらいのサービスぶりだったヾ(- -;)

 

 結局、祈祷も空しく、というか祈祷の激しさに堪え切れずに麗子は絶命する。失意の加納は、それでも東京に帰らず、麗子の実家に厄介になりながら、例のウラン鉱を掘削するために出来た作業場で働くことになる。だが、そこでも掘削ドリルが突如作業員を襲うという不可解な事件が起こる。

 

 麗子の妹・磨子(長谷川真砂美)は、因習の残る村や剣持家の中では数少ない加納の理解者だ。彼女はまた、世間体にとらわれず勇とも仲良しだ。彼の姉・かおりが農作業に従事している時、村のドラ息子たち(愚連隊?)が彼女の許にバイクで乗り付け、彼女を襲おうとする。彼らから逃れるために、思い余って崖から滝つぼに飛び込んだかおりは、たまたま通りかかった加納に救われ、それが縁で彼女の実家で村八分にされている垂水家にしばし厄介になることとなる(ここで多少のわだかまりを見せつつも、結局加納と打ち解ける勇の姿の「ええ、それでいいの?」って突っ込みを入れたくなったよ(;^_^A)  しかし、かおりに逃げられたことへの逆恨みから、ドラ息子たちが麗子の死は犬神の祟りと村人を焚き付け、家に糞尿を撒くなど垂水家への陰湿な嫌がらせを敢行する。更に、ウラン鉱脈採掘のため作業場で使用した硫酸が村の井戸水を汚染し、それによって村人が何人も命を落としたのを、垂水家の嫌がらせに対する仕返し(腹いせに井戸に毒を盛った云々)だと勘違いした村人たち(特にドラ息子たち)によって、主・降作(室田日出男!)の留守に垂水家は女子供も含め皆殺しの憂き目に遭う。そういえば、この垂水家は父親が前述の室田日出男、そして母親が神代辰巳版『地獄』の岸田“キョンキョン”今日子という、濃過ぎるキャスティング(そして娘が『番格ロック』!)で、通も唸らせる豪華な人選だった(;^_^A

 

 この蛮行で村への復讐を誓った降作は、犬神を憑依させようと、黒い愛犬を穴に埋めて首だけ出し、それを日本刀で一刀両断に斬り捨てる。するとその斬り取られた犬の生首が降作の首に噛みつき、それで彼は絶命。それと同時に、犬神の祟りがたまたま近くにいた磨子に憑依する。その間、剛造と妻の佐和(大島渚夫人の小山明子!)は、かつて犬神の祟りで発狂し長らく蔵に幽閉されていた息子の手によって絶命し、また一目散に逃げたドラ息子たちや村の衆も、飛んできた犬の生首によって悉く命を落としていく。犬神の呪いはそのままウラン鉱石の採掘場も襲い、硫酸流出を隠蔽しようとした加納の上司・梶山所長(川合伸旺)をはじめ作業員を皆殺しにしてしまう。

 

 その後、加納が犬神に憑依された義理の妹・磨子を、激しすぎる格闘の果てに、自らの命を引き換えに悪霊から救い出したところで、物語は一応の結末を迎える。しかしながら、ラスト、村人たちの葬列とは別の場所で荼毘に付された棺の蓋がいきなり開き、磨子の見守る中、加納の遺体がぴょんと起き上がり、そのまま溶けていく不条理すぎるシーンでエンドマークとなる。

 

 物語は『エクソシスト』であり『オーメン』であり『化け猫』であり『ポルノ』であり、中川信夫版と神代辰巳版双方の『地獄』の雰囲気もあり、時として仮面ライダー1号の初期のテイストもあり、さらにはのちに公開された『多羅尾伴内 鬼面村の惨劇』のおどろおどろしい味わいもありという、何とも欲張りな、それでいて破綻しかかりながらすんでのところで踏みとどまっている危うさもあったり、という印象を受けた映画だった。動物愛護団体から抗議を受けたという「犬の首切り」シーンは、観れは明らかにダミーで、どうも本当の犬を斬った云々は東映サイドが世間を煽ることを意図したフェイクだったようだ。

 

 それにしても、本作の同時上映が『新女囚さそり特殊房X』だったそうだから、当時の映画ファンはこの二本立てでいかがわしい映画を十分堪能できたんだろう。嗚呼、なんて羨ましい話だ(;^_^A こんな“観てはならない”ような二本立てが堂々一般の映画館で上映されていた、当時の東映というか70年代の邦画界の邪なパワーには今更ながら圧倒される!(;^_^A  あと10年早く生まれたかったよ(;^_^A

 

 ところで、本作で磨子役を務め、序盤の“純朴”を絵にかいたようなキャラクターから、犬神の憑依によって一転“化け猫”さながらに変幻自在に動き回り、加納を翻弄するという素晴らしい演技を魅せてくれた長谷川真砂美は、本作が映画デビューだったんだそうだけど、僅か4本しかない彼女の映画出演作がこの『犬神の悪霊』を筆頭に、『多羅尾伴内 鬼面村の惨劇』(山口和彦監督)、『愛の亡霊』(大島渚監督)、そして『ねらわれた学園』(大林宣彦監督)ってのが凄い! 特に1~3作目までの“濃さ”っていったら……!!(;^_^A