神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『エジソンズ・ゲーム』 ~誰が“正義”か?~

 昨年4月から始めた「月に一度は劇場映画観賞」。今月で15か月連続更新となったよ(;^_^A それにしても、こうやって「毎月必ず映画館へ行く」という“縛り”は結構面白いもので、特に「観たい」っていう映画がなくても、何とか1本だけは観ようとするから、普段の“守備範囲”じゃない映画だって、時として観ることになってしまう。それで様々なジャンルを好き嫌い関係なく観賞出来、結果視野を広げることになる。今まで観た中でも『JOKER』『フォードvsフェラーリ』なんて、それまでならまず観に行くことなんて考えられなったし。『ターミネーター』も『スターウォーズ』もテレビで十分だって思っただろう。

 

 そんなわけで、ただでさえ公開されている映画が少ない上、そろそろ観に行かないと「6月分」を逃してしまうと考え、各シネコンのサイトをチェックし、そこで予告編をちょっと観て、「これにするか」って直前に直感で選んだのが、この度観賞した『エジソンズ・ゲーム』だった。発明王として知らない者のいないエジソンと、実業家のウェスティングハウスとの、原題にある「THE CURRENT WAR(電流戦争)」を史実に基づいて描いた作品である。ちょうど半年前、これも史実に基づく映画『フォードvsフェラーリ』を観ていたので、それに近いノリかな、って思って今回観賞作品に選んだ次第。

 

 

 舞台はは1800年代末のアメリカで、主人公は電球を発明し電気を次世代エネルギーとして普及を目論む明王エジソンと、汽車の「空気ブレーキ」を開発した発明家としても名高く、天然ガスに未来を託す実業家のウェスティングハウス。この構図を見て、てっきり新エネルギーの開発に尽力するエジソンを、旧態然としたエネルギーに固執するウェスティングハウスらが妨害するが、いつしかエジソンの方が社会に支持されて……なんて「勧善懲悪」の物語かと思っていた。しかし実際は、一度はエジソンと業務提携を結ぼうとしたが彼に一方的にすっぽかされたウェスティングハウスが、仲間の技師ポープと独自で電力供給の手段を開発し、それでエジソンと“電流戦争”を始める、という意外なストーリーだった。

 

 エジソンが直流による送電法を先に開発すると、ウェスティングハウスは交流に活路を見出す。安全で大量送電が可能な反面、送電距離が短く多くの発電所を必要とする直流に対して、危険性は否定できないが出力が高く地上に送電線を引けば遠くまでの送電が可能でコストパフィーマンスのよい交流、という「帯に短したすきに長し」な両送電システムの開発・売り込みに2人は血道をあげるが、徐々に効率の良い交流の方が評価を上げ始める。すると焦ったエジソンは、交流の危険性をマスコミに訴える、という「ネガティブキャンペーン」を展開し、その上交流電流を用いた馬の殺処分さえマスコミに公開する。しかしそのことがきっかけで、「決して人を殺す発明はしない」と誓い、大統領直々の兵器開発の打診さえ断ったはずのエジソンは、その交流電流による処刑マシーン「電気椅子」の開発をする羽目になる。一方のウェスティングハウスは、メディアを使用したエジソンの挑発にも一切反応も反論もせず、ただ交流電流の開発と、それを電球の点灯のみならず機械の作動にも応用しようと研究を黙々と続ける。そんな時、盟友のポープが交流電流の実験中、不慮の感電死を遂げてしまう。そこでエジソンはその事故さえもネガティブキャンペーンの格好の材料にし、電気椅子で死刑囚を感電死させる行為を「“ウェスティングハウス”する」と名付ける悪ノリぶり。しかし彼もウェスティングハウスが盟友を失ったように、研究の最中に最愛の妻を失い、しかも開発によって自社の予算も底をついて破産寸前の状態。そんな2人は、翌年に控えたシカゴでの世界万博にどちらのシステムが採用されるかで、最後のシノギを削ることとなる。

 

 彼らの「電流戦争」に多大なる影響を与えるのが、オーストリア移民の発明家・テスラ。当初はエジソンに憧れ、彼の会社に就職するも、交流の良さを主張したためエジソンに煙たがられ会社を辞めることとなる。その後資金援助を経て研究を続けるが、そこでの特許をオーナーに搾取された挙句解雇され、最終的にはウェスティングハウスの元に行き、2人でエジソンに対抗する研究を行うことになる。一方のエジソンを支えるのは、彼の秘書であるインサル。やがて、シカゴ万博の電気ショーをどちらの陣営に入札させるかのプレゼンテーションに、片やエジソンの特命を受けたインサル、片やウェスティングハウス自身が臨むこととなる………

 

 本作は、エジソンウェスティングハウス双方の駆け引きが実にスリリングで、しかも2時間に満たない上映時間ながらあたかも大河ドラマを観ているような登場人物同士のダイナミックさもあって、それなりに楽しめたんだけど、正直なところ、なかなかノレなかっのも事実だ。それというもの、実際のドラマが、単なる“勧善懲悪”の物語ではないところ、つまりエジソンウェスティングハウスの両者を単純に善悪で区別出来なかったのが大きな原因だろう。特に、本来ならばテーマ上絶対的な「正義」であるだろうエジソンが、意外にも傲慢で姑息で、あの泰然自若したような印象とはかけ離れていたし、一方ウェスティングハウスはといえば、そもそも実業家であったという設定や、交流電流のデモンストレーションで用いた電球がほぼエジソンのパクリであったり(それで彼はウェスティングハウス相手に訴訟を起こす)した点にいささかのうさん臭さを感じるものの、意外にフェアな紳士で、むしろ彼の方が泰然自若していたといえる。そんな二人の立ち位置の曖昧さが、「電流戦争」の 複雑な設定と相まって、なかなか物語に入り込めなかったからかもしれない。

 

 そんなエジソンを演じていたのが、MCU『ドクター・ストレンジ』のベネティクト・カンバーバッチ。MCU作品の中では『アイアンマン』のトニー・スタークことロバート・ダウニー・jrとはまた違った形での傲慢な演技を魅せてくれていたので、本作での、従来のエジソン像を翻すキャラクターにはうってつけだったと思う。また、対するウェスティングハウス役が『シェイプ・オブ・ウォーター』で悲しい悪役・ストリックランドを演じたマイケル・シャノンだったのは、後で知って驚いた。あの時の役こそ傲慢の塊だったのに、今回は徐々に好感度が増していく“紳士”役だったんだもの(;^_^A  でも本作は日本公開は今回だけど、アメリカでは『シェイブ・オブ~』と同年の2017年に既に公開されていたんだね。そういえば、一昨晩放映された『GODZILLA』で渡辺謙演じる芹沢猪四郎博士の右腕的存在であるヴィヴィアン・グレアム博士を演じたサリー・ホーキンスも『シェイブ・オブ~』に出演していたっけ(しかも主演!〉 それと、エジソンの秘書・インサルが『スパイダーマン・ホームカミング』主演のトム・ホラントだったんで、エジソン役のカンバーバッチとの掛け合いは、MCUの『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』における、ドクター・ストレンジスパイダーマンのそれを彷彿させてくれた(;^_^A

 

 本作に関しては、事前にエジソンウェスティングハウスとの間で起こった「電流戦争」についてwikiでもいいから事前に“予習”していた方が分かり易くて楽しめるかもしれない。ちょっとドラマチックな「プロジェクトX」だと思えば、結構楽しめる作品だと思うよ(;^_^A