啖呵上等!麻宮サキ!! ~検証『スケバン刑事』第9話「いじめの根を断て」~
最近になって立て続けに再観賞を続けている初代『スケバン刑事』。もっとも中後半の「悪魔の三姉妹編」は悲壮感すぎて、本作の個人的好みでもある「カタルシス」も過剰な演出による「ねじれた可笑しさ」も乏しいので、もっぱら観るのは1~10話が中心になってしまう。その中には、先日紹介した我が『スケバン刑事』“初体験”の第7話「愛と憎しみのアーチェリー」もあるし、それ以外も、“週替わり”に登場する不埒な悪党に対して、その都度怒りを沸騰させて、身を震わせながら血を吐くように口上・啖呵を切るサキの姿に拍手喝采しながら、上記の「ねじれた可笑しさ」を堪能している(;^_^A
そんな“一話完結”の時期の中でも、サキの啖呵が最高水準に達した回が、第9話「いじめの根を断て」だ。
この回は、集団万引き事件が横行する「都立泉が丘高校」(語源は東映大“泉”撮影所か?)が舞台で、その実態を暴くため、麻宮サキ(斉藤由貴)は転校と称して潜入する。それ以前にサキはとあるブティックで万引きする女子高生を咎めるという場面に遭遇していたが、なんと転校したクラスに、その女子高生・優子(つちやかおり)の姿を見つけ驚愕する。しかもその優子は、クラスメートから集団でいじめを受けていた。彼女が万引きに手を染めた理由も、そうしなければクラスでのいじめの対象になるためだった。その上PTA役員の彼女の父親は、万引きをする生徒を咎めた直後、何者かによって轢き逃げされるという不審死を遂げてしまっていた。
優子へのいじめを止めに入ったサキは、逆にいじめ集団のリーダー格と思しき女子生徒から優子と同様に万引きを強要されるが、現金でボールペンを大量に購入する、という“抵抗”をみせ、リーダー他いじめ集団から橋脚の下で袋叩きに遭う。ただ、今回あくまで内偵の任務のため敢えて無抵抗を装ってはいるものの、本当は泣く子も黙る「スケバン」のサキである。無知なるが故に、彼女の正体を知るものならば決してしてはならない所業をしでかしてしまったいじめ集団は、後でサキの“倍返し”を食らうこととなるのだが……。すると、そこへ真っ赤な車に乗って登場するのが、チンピラの矢口(田浦智之)。この矢口こそ、泉が丘高校の万引き集団を裏で操る黒幕だった。そこから、そのことを知ったサキの反撃が始まる。
彼女はまず、優子を呼び出し、万引きの案件を詰問する。しかし彼女は父親の死にさえその影を落とす万引き集団の強要に対して、「仕方がない」と服従するしかできない。抵抗を促すサキにも口をつぐむ優子に、サキは「悪の根っこ」をはびこらされないため、いじめを恐れず抵抗しろ、と改めて激しく諭す。
ここでサキの口から登場する「悪の根っこ」とは、今回、暗闇指令が彼女へ下した命令の中に登場する言葉だ。そこで彼は、今回の事件の本質をサキの足元に生えた「どくだみ草」を例にとり、その「どくだみ草」を引き抜くとそこには無数の根っこが生えていて、今回はその根っこを根絶やしにすることだ、と語る。しかし本来「どくだみ草」って、解毒効果のある薬草である。名前がそうだからと言って毒草扱いされるとは、何とも「どくだみ草」がかわいそうである(;^_^A
さて、サキの言葉に従って、優子は勇気を奮って河原でいじめ集団に万引きの拒否を宣言するものの、黒幕の矢口も交えた連中から集団リンチを受ける。男子生徒たちに押さえつけられ、しこたま川のドブ水を飲まされる優子。そこへ優子の母親が駆けつけるが、矢口はその両者とも殺してしまえと嘯く。そんな修羅場に、いきなりオフロードバイク(それも「Kawasaki」!)にまたがったライダースーツ姿のサキが登場。颯爽とバイクを操って河原に駆け降りると、そのまま双方の間に割って入り、優子母子をその場から逃がしてやる。ここから、一世一代のサキの口上、啖呵、そして激しすぎる“教育的指導”が始まるのである!(以下台詞セリフ採録)
矢口「何だ。てめぇは!」(←お約束ですな(;^_^A)
サキ「何だっていいよ! あたしはね、弱い者いじめをする奴が大っ嫌いなんだ! 生徒を脅して万引きをさせ、そのアガリをかすめるなんざ、男として最低だよ!」
ここでサキは矢口の鼻先をかすめるようにヨーヨーを飛ばして威嚇する(これは後の行為の伏線となる)。当然ながら矢口は連れてきた配下のチンピラや男子生徒たちにサキを襲わせるが、あっけなく返り討ちにされる(このシーンでは、斉藤由貴がメットのシールドを上げて素顔を出したまま、つまりボディダブルではなく自ら肉体で殺陣を披露している)。チンピラを一蹴したサキは、続いて万引き集団の生徒たちに、前半の“落とし前”も兼ねてのキツーい説教をかます。まずはリーダー格の女子生徒(名前不詳)の腕を逆向きに捻り上げる。
名前不詳「サキ! 許してよ! あたしたちは脅されて、いやいやながらやったのよ!」
サキ「ふざけるんじゃねぇよ! 脅されてやったといえば、それで済むと思ってんのか!」
続いて男子生徒の胸ぐらを掴み、
サキ「お前ら一人一人が優子のように性根を据えて『いやだ』といえば、悪の根っこが蔓延ることはなかったんだ!」
今度は二人の男子生徒に向かって、
サキ「心の中を覗いてみな! 悪の根っこは外にあるんじゃないよ!」(雁首並べて思わずうつむく生徒の姿が笑える)
再び生徒の胸ぐらを掴んで
サキ「あんたたちの心の中にも生えてるんじゃないか!」
締めは全員に睨みを利かして
サキ「甘ったれるんじゃねぇよ!!」
まさに「悪の根っこ」のオンパレード! とにかくこれらの啖呵を、あの斉藤由貴が、そのちょっと前まで歌謡番組で「せ~ふくの~ォ むねのボォタァンを~ォ♪」(by「卒業」)なんて歌っていた斉藤由貴が、その同じ声のまま、気合を入れて切っているのである。もうアンバランスさを笑う前に、感動すら覚える。見事としか言いようがない!!(;^_^A
そんな説教が続く中、こっそりその場から逃げようとする黒幕の矢口。だがそんなことをサキが許すはずもなく、川の水にまみれドブネズミのように逃げる矢口を“kawasaki”のオフロードで執拗に追い回す。哀れ、浅瀬の川面に腹ばいになって転がる矢口。この矢口役を務める田浦智之は、70~80年代のテレビドラマで、やたら粋がったケチなチンピラ役ばかり演じていた、一度見たら忘れられない特徴的な表情の役者である。今回も彼のキャリアに恥じない、なんとも姑息なチンピラぶりを発揮していた。
矢口「お前は一体、誰なんだ!」(←“お約束”2連発!!(;^_^A)
そこでサキはお約束の、ヨーヨーの蓋を開いて“桜の代紋”を矢口に見せつける。
矢口「桜の代紋!」
サキ「スケバンまで張ったこの麻宮サキが、今じゃマッポの手先……だがな、てめぇみてぇな小悪党には、体中の血が燃えるんだぁ!!!」
スケバンまで張ったサキの心情から言えば、この手のケチで姑息な悪党はとにかく許せないらしい。矢口は懐からナイフを持ち出し、精一杯の抵抗を試みるものの、そのナイフはヨーヨーの一撃ですぐに叩き落される。
サキ「矢口! 優子さんのお父さんを車で轢き殺した犯人はお前だね! 正直に言わないと、このヨーヨーでお前の鼻っ柱を叩き割るよ!」
先程来から、何度も鼻先に威嚇のヨーヨーを掠らされてすっかりビビっている矢口は、すぐに観念して、ベラベラと白状し始める。
矢口「ま、待て! 優子の親父を轢き殺したのは確かに俺だ。万引き事件のバックが俺だと突き止めやがったんで、俺が口封じのために……殺したんだ……」
この男、単なる万引き集団の黒幕だっただけではなく、無軌道で短絡的な殺人者でもあったのだ。この一言で、サキの怒りは頂点に達する。
サキ「馬鹿野郎ォ! 遊ぶ金欲しさに、人を虫けらみてェに殺しやがって! てめぇ、許せねぇ!!」
サキ、お決まりのポーズからのヨーヨー投げ。今回は川面を切るように進むヨーヨーの鎖が、見事矢口の両腕をがんじがらめに縛り付ける。冒頭で話題にした「愛と憎しみのアーチェリー」と異なり、犯人に一切の同情の余地もないので、何の余韻もないまま、事件は一件落着する。ラスト、優子母子のラーメン屋をサキが温かく見守るシーンがオマケのように挿入されているものの、この潔さは往年の香港アクション映画を彷彿させるほどだ。
思えば、一連の“一話完結”の頃って、手を変え品を変え悪党たちが登場するが、どれもサキの手にかかればあっけない小悪党はかりである。だからどんなに激しい啖呵を切ろうと、いくばくか苦悩しようと、後の「悪魔の三姉妹編」を考えると、比較的ドラマとしても安心して「ねじれた可笑しさ」を味わうことができた。私としてはどうしてもヒロインアクションには「完全無欠」を求めてしまうので、最後の最後でサキが正体を明かしたら、そこから怒涛のように勧善懲悪の物語がストレートに展開していくこの初代『スケバン刑事』の初期10話が大好きだ。もしかしたら、『スケバン刑事』のファンを標榜しながら、実はこの初代の10話分だけのファンなのかもしれない(;^_^A そういえば、拙作の“広島発ヒロインアクション”も最新作の『女子高生戦士☆英あいり』以外、どれも初代の10話と同じフォーマットで撮ってきたような気がするな(;^_^A