神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

“最凶”ヒロインの華麗なる可能性

 韓流映画の“最凶(狂?)”ヒロインアクションムービー『悪女 AKUJO』のクライマックス~ラストを観る。

 

 

 最愛の元夫であり、最愛の娘の父親であり、そして最悪の黒幕であるジュンサン(シン・ハギュン)一味のアジトに、亡き娘の復讐を誓って、車ごと突っ込み大暴れをする主人公の“人間殺人兵器彼女”スクヒ(キム・オクビン)。多くの配下をなぎ倒し、途中車に轢かれるも、その車を奪ってまでして、乗り合いバスをジャックして逃げる一味を執拗に追いかける。フロントガラスをぶち破ってボンネットに“箱ノリ”し、ツルハシをハンドルに突っ込んで操作しながら、やがてバスに追いつき、そのツルハシを車体に刺して飛び乗り、次から次へと、娘と再婚した夫の両方を爆殺した一味を撃って突いて刺して、次々殺していく。挙句にハンドルを握る手下をツルハシで斬り殺してバスを横転させ、ついにジュンサンを追い詰めとどめを刺す。そして復讐を終えて車外に出ると、彼女を包囲し無数の拳銃を向ける警官たち。その前で不敵な(っていうか狂った)笑みを浮かべるスクヒ。そこで暗転→エンドタイトルってなるんだから、観終わった後の疲労感は半端ない。何といっても、彼女の体にくくりつけてたのかって思うくらい、カメラは(そしてこの映画を観る観客・視聴者の目は)目まぐるしく動き跳び……あたかも”疑似ワンカット”を見続けているかのような錯覚に、眩暈すら覚える。そして度を過ぎた血糊と痛々しい切り株描写にも……まさに“バイオレンスジャック”のようだ。

 

 

 女アサシンものといえば、クールでスタイリッシュ。武器も拳銃かライフルと相場が決まっている。中には『アトミック・ブロンド』のシャーリーズ・セロンのように痛々しい肉弾バトルをヒロインが展開する映画もあるけれど、この『悪女 AKUJO』に関しては、主人公が女であることを忘れてしまいそうな、鬼気迫る、そして超人的な破壊力を秘めている。また同じ強さでも『ワンダーウーマン』『LUCY』『キャプテン・マーベル』のような完全無欠さとは別次元の、まさに「鬼」の強さである。演じるキム・オクビンが、素顔は顔立ちの整ったいかにも韓国美人といった容貌なだけに、彼女が鬼の形相と冷め切った狂気を孕んだ目で、全身にどす黒い返り血をいっぱい浴びて刀やツルハシを構える姿は、絶対夜道では会いたくない凄まじさだ。

 

 

 もっとも、物語はユルい予定調和な展開なんだけど、ハッピーエンドとは無縁の、ただただ主人公をバッドエンドに追い詰めていくという意味での予定調和なのが、観ていてつらい。魅せ場としても、いきなり主人公主観の映像で、敵方のアジトに殴りこんで一味を皆殺しにする冒頭のほぼワンカットシーン、再婚相手との結婚式会場で、ウェディングドレスを身にまとったまま、ターゲットをライフルで狙撃するシーン、路上でのバイクにまたがってのチャンバラ、そして上記のクライマックスなんだけど、その間に挿入される主人公の悲しすぎるエピソードを考えると何ともやるせなく、本作を観賞して、一連の勧善懲悪なヒロインアクションのようにスカッとすることは難しい。いっそ上記のアクションシーンのみを繋げて、そこだけずっと観続けたいような作品だ。

 

 

 たぐいまれな美棒を誇り、且つ元々いくつかの格闘技に精通しており、しかも本作のためにしばらくの間血の滲むような特訓をしたというのだから、それこそ韓国に誕生した「21世紀の志穂美悦子Ⅱ世」の称号を、このキム・オクビン与えてあげてもいいくらいの逸材だ。「悦ちゃん2世」の有力候補だった武田梨奈も、『ワカコ酒』で「ぷしゅ~」なんてやってるうちに、海を渉ったヒロインに、その称号を奪われてしまうぞ(;^_^A

 

 それにしても『悪女 AKUJO』は同じヒロインアクションでも『スケバン刑事』『少女コマンドーIZUMI』『セーラー服反逆同盟』『こんな学園みたことない!』といった作品とは極北の位置にある作品だろうけど(悲劇性においては『禁じられたマリコ』とは一脈通じるかもしれない……)、主演のキム・オクビンがもっとスタイリッシュで、「情念」とはかけ離れた強くてかっこいいヒロインを演じたら、素敵なヒロインアクションムービーが出来上がるかもしれない。その時には、『ラスト。ブラッド』の“セーラー服に日本刀”のチョン・ジヒョンや、『グエムル-漢江の怪物-』の“アーチェリー娘”ベ・ドゥナらと組んで、とびっきり楽しい、そして勧善懲悪でスカッとする活劇を撮ってほしい。そうすればきっとハリウッドでの需要を見込まれるかもしれないし、邦画にとってもいい刺激になると思うんだけどね(;^_^A