「地球頂きます!」~都市破壊の先にあるもの~
CSで『帰ってきたウルトラマン』第48話「地球頂きます!」を観賞。ある日、宇宙から小型のカプセルが地球に落ちてくる。それを、その日も授業をサボった当世一の怠け者小学生・勝が拾い、中を空けると怪獣ヤメタランスが格納されていた。ヤメタランスからは地球人類を堕落させる「怠け者放射能」が発生しており、その放射能に感染した勝に接した者全てが何もかも「やぁめた~」と投げだし、すっかり何の意欲も失ってしまう。人類が怠ければ怠けるほど成長していくヤメタランスは、周囲の物を手有り次第食い荒らしてますます巨大化する。街の危機に総動員で乗り出したMATの面々も、「怠け者放射能」によって伊吹隊長を始めすっかり「怠け者化」し、その感染はあろうことか新マンである郷秀樹(団次郎)にまで及ぶ。地球を守る使命を捨てて草むらに寝ころび薄ら笑いを浮かべる郷。しかし、生来の怠け者が幸いして、「怠け者放射能」によって逆に真面目な人間になった勝の尽力によって、何とか正気を取り戻した郷はウルトラマンに変身し、ヤメタランスをブレスレッドで小型化し、宇宙に追放する。そこへ、ヤメタランスを使って地球侵略を企てた宇宙人・ササヒラーが巨大化してウルトラマンに挑むものの、郷と同じく正気を取り戻したMATの面々の総攻撃とウルトラマンの活躍によって、あえなく返り討ちに遭ってしまう……そんなものがたりだった。
この回のドラマで特筆すべきは、「怠け者放射能」によってどんどん堕落していく人類のシュールな描写だ。中でも、強面な隊長役の根上淳が、惚けた顔でブランコに乗りユ~ラユ~ラしながら薄笑いを浮かべるシーンなど、前衛劇のようなインパクトを与えてくれす。また感染した者は一様に顔面に無数の点々(シミ?)が発生するんだけれど、郷はおろかウルトラマンまでその能面のようなフェイズに黒い点々を浮かべるのはやり過ぎ感満載で、ここら辺りもしっかりスラップスティックコメディしていて、実に面白かった。そもそも、「人間を堕落させて、その隙に地球侵略を行う」というササヒラーの作戦が、ある種『ウルトラセブン』「倣われた街」におけるメトロン星人の作戦(人類の互いの信頼関係を破壊し互いに憎しみ合い自滅させる)と真逆である点もユニークだった。馬鹿馬鹿しくて、その実空恐ろしい、見事な物語立ったと思う(脚本は、『ウルトラQ』「あけてくれ!」や『3年B組金八先生』の小山内美江子)。
ところで、この回は大都会というより中小規模な住宅街が舞台となっていて、そこで怪獣ヤメタランスが暴れるんだけど、その際に民家が破壊されるシーンが何とも痛々しく、胸に迫るものがあった。これは今まで感じもしなかった感覚で、民家が壊される度にその家の持ち主(家族)にどうしても思いを馳せざるを得なかった。ミニチュア特撮という虚構の世界であるのにもかかわらず……これはおそらく広島に在住し、先の集中豪雨禍で、見慣れた街が破壊され尊い人命が失われた場面に遭遇したからに他ならないだろう。民家が破壊されれば、そこに住む人間の生活も同じように破壊され、住人は路頭に迷う。ドラマ的には怪獣や侵略者が退治されたら幕を閉じるが、怪獣が侵略者がいなくなってしまっても、家を失った人々の生活が復元するわけではない。そんなこと、今まで思いもしなかっただけに、今頃になってそのことに気付いた自分がなにやら恥ずかしくなってしまった……
自宅崩壊の悲劇といえば『ゴジラ×メカゴジラ』の冒頭において柳沢慎吾演じる家主の眼前でゴジラによって自宅が踏みつぶされるシーンがある(柳沢の「俺の家が~ッ!」の叫びがやけにリアル)が、特撮だからといってサラっとそんなシーンを観て流すのではなく、そこに息づく人間に思いを馳せれば、逆にこの手の特撮映画・ドラマは大いなるリアリティーを以て観る者の胸に迫ってくる者ではなかろうか。
その為にも、我々観る者はもっとイマジネーションを働かせて臨まなければならないと思う。