『怪獣大戦争』の「影」に『赤ひげ』あり?
"5"月"5"日午後"5"時とは「"ゴ"並び」ということで、昨日の17:00より、CSの日本映画専門チャンネルで、50~70年代のゴジラシリーズ15作品が『ゴジラ』から順番にフィルムマラソンで上映され続けている(たった今、ようやく最終の『メカゴジラの逆襲:』が終わった……)。70年代後半からしばし続いた暗黒の“ゴジラ渇望”時代を体験した身から考えたら“奇跡”の様な事態なので、既に何度も何度も観てきた作品群ながら、ついつい明け方の3時まで見続けてしまった
それで、昨晩(今朝?)最後に観た作品が『怪獣大戦争』。「ゴジラ」「ラドン」「キングギドラ」という東宝特撮“王道”三大怪獣が登場し、しかもストーリー的にはX星人による地球侵略がテーマという、あたかもwindows95シリーズとNTシリーズがXPで“合体”したごとく(何なんだ、この例え?)、東宝の「怪獣シリーズ」と『地球防衛軍』『宇宙大戦争』といった「SFシリーズ」の世界観が見事に融合した作品として、シリーズ中でも評判の高い作品だ。再上映・TV放映などで観る機会も多く、私自身、おそらくビデオ(DVD)観賞を除いては一番たくさん観た「ゴジラ」映画ではなかっただろうか。
さて、上記の様に誉れ高い本作だが、この作品について、前から一つの疑問があった。それは登場怪獣のラインナップだ。ぞの前年公開された『三大怪獣 地球最大の決戦』では、華々しきデビューを飾ったキングギドラを筆頭に、東宝特撮でトップを張った「ゴジラ」「空の大怪獣ラドン」「モスラ」が絡む、実に豪華なラインナップだった。しかし本作はその翌年の公開にもかかわらず、登場怪獣は前作からモスラを除いただけで代わり映えもしない。しかも別にストーリーの関連性もない。当時、怪獣が目当てだっただけに、この2作品には「別に同じような映画を撮らなくてもいいのに」なんて子供心ながら思ったことを記憶している。もっともリバイバル上映が“初体験”だったから、『怪獣大戦争』の後に『三大怪獣~』が公開されたと勘違いしていたけれどね。
そんな訳で、今回ちょっとうがった視点でこの『怪獣大戦争』を観たとき、改めて気になったのは特撮シーンのライブフィルムの多さ。勿論、宇宙へ“輸送される”シーンやX星での3大怪獣のバトルなど、新撮されたシーンもあるが、3大怪獣の個別の都市破壊、中でもキングギドラやラドンのシーンでは頻繁に『三大怪獣~』や『空の大怪獣ラドン』のライブフィルム(よく観りゃ博多・天神!)が使用されていた。新撮のシーンは富士山麓の閑散とした村々で、大型の家屋セットを巨大なゴジラの足が蹴散らす斬新なカットはあるが「お手頃感」はどうもぬぐえない。後期の『オール怪獣大進撃』や『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』『ゴジラ対メガロ』では、予算や技術の制約もあり、“必然”としてライブフィルムが多用されていたが、この『怪獣大戦争』時は円谷英二御大も健在で、まだまだ東宝怪獣特撮に元気があった頃だと思うと、なんだか解せなかった。
そこで思うに、その前作『三大怪獣~』が1964年正月に公開予定だった黒澤明の『赤ひげ』の制作遅れにより、急遽企画された作品だったことが影響しているのではないか。突貫工事でありながら(物語展開の“?”はとりあえず置いておいて)あれだけのスペクタクル作品を作り上げた東宝特撮の現場はかなり疲弊していて(しかもゴジラだけでなく『海底軍艦』もあった……)、その次の作品と考えたとき、窮余の策として、過去(前回)のライブフィルムが使い回せるようにこの3大“王道”怪獣を“キャスティング”したのではないか、と思った。この企画’(宇宙人による怪獣を使っての侵略テーマ)ならば、『ゴジラモスラキングギドラ大怪獣総攻撃』の企画で「アンギラス」「バラン」を“大人の事情”で「モスラ」「キングギドラ」に差し替えたのと同様、怪獣の差し替えは可能だったろうし。
本作の次の作品から、元来『キングコング対エビラ ロビンソンクルーゾー作戦』のスライド企画ながら、ゴジラの暴れる舞台は日本の都市から南の島に移り変わっていく。「予算のかかる都市破壊を避けた」ととかく揶揄されるが、『キングコング対ゴジラ』で7年ぶりにカラーで華やかな復活を遂げたゴジラ映画が、翌々年の『モスラ対ゴジラ』に至るまで実に重厚でしっかりした作品になっていたにも関わらず、こうやってライブの多様や“南海”に移り変わっていったことを考えると、『赤ひげ』の落とした“影”は結構大きかったと思わずにはいられない。
黒澤監督は、本作(そして『三大怪獣~』も)の本多i猪四郎監督を「イノさん」と呼ぶくらい親密な関係だったはずなのになぁ…… 迷惑かけちゃダメだよ