神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『貞子vs伽耶子』 “王道”ホラーの「オール怪獣大進撃」

 およそ「王道」という言葉ほど“ホラー”に似つかわしくないものはない。「王道」といえば、そうあるべき正統派の展開、いわば“お約束”に守られた予定調和の世界である。それに対し、何が起こるか分からない、その先が全く読めないところが“ホラー”の怖さであり醍醐味でもある。だから先が読める予定調和のホラーなんて、あり得ない、と考えるのが世の常識だ。

 しかしながら、この『貞子vs伽耶子』に限っては、「王道」と“ホラー”とが奇跡のような融合を遂げている。だから、個々のショックシーンは随所に散りばめられているものの、全体のストーリーはホラーでありがならほぼ先が見える安心展開。しかも本当に『リング』シリーズの「貞子」と『呪怨』シリーズの「伽耶子」が“VS”するのだからたまらない! このテイストは、ホラー映画というよりは“怪獣映画”として観るべき! それこそ『キングコング対ゴジラ』の如き様相を呈した、外連味タップリの「王道ホラームービー」に仕上がっていたよ(;^_^A 何と言ってもキャッチフレーズが「呪い勝つのは、どっちだ!?」だもの(;^_^A

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※以下、ネタバレ注意(少なくとも半年後までは)

 作品はいきなり自らの手で自分の首を絞めて死んだ老婆の部屋に、たまたまやって来た民生委員の女が、かの怪しげなビデオを不可抗力で観てしまう、という、いかにもなシーンでスタート。そして主人公の女子大生・有里(山本美月)がその「呪いのビデオ」をデッキごと古道具屋で購入して、そこで同級生の夏美(佐津川愛美)がたまたま不可抗力でこのビデオを観てしまったことから、話は一気に“負”の方向に滑り落ちるかの如く展開していく。ここまでは観ていて、まあ予測通りの展開だったんだけど、ホラー映画なだけに主人公たちの狼狽ぶりが半端でなく、2日後の死を宿命づけられた夏美の絶望的な死の恐怖におびえる姿は、その舌足らずな台詞回しと共に何とも切実さを醸し出していた。ここから、大学の教授・森繁(甲本雅裕)やその知り合いの霊媒師・法柳(堂免一るこ)も巻き込んで怒濤のように急展開していく。ここで夏美に取り憑いてしまった「貞子」がとてつもない力を発揮し、大殺戮が繰り広げられる。ちなみにこちらは本編における『リング』パート。

 一方、かつて一家無理心中の舞台になって以来不気味な噂が絶えず、ついに立ち入り禁止になった2階建て住宅「呪いの家」の近所に越してきた、女子高生の鈴花(玉城ティナ)は、その家のことが気になって仕方がなく、ある日、その家の前で一人の小学生を目撃する。とはいってもその子がかの『呪怨』シリーズの「俊雄」か、といったらそうではなく、単なるいじめられっ子の少年。そんな彼に執拗なイジメを強いる3人組の同級生に、その「呪いの家」に無理矢理入らされた少年は、そこで「俊雄」と遭遇。その影響からか、彼はドア越しに3人組のリーダー格めがけ石を投げつけ、眉間に命中し激高する彼らをまんまと家に誘い込む。ここでその3人組は次々と“家の呪い”によって一人また一人と闇に引きずり込まれていく。この子供の死を暗示されるシーンだが、それまでに3人組の子供独特の陰湿な性根の悪さを嫌になるほど見せつけられていたので、恐怖よりは因果応報というか、“スカッとJAPAN”な展開だったよ。「ああそうか、こういうとき悪霊って、悪い奴をまず懲らしめるんだよな」って。でもそう思うやいなや、いじめられっ子の少年まで、「俊雄」の餌食になったしまったよ……って、この部分は『呪怨』パート。全体のバランスとして『リング』パート7割、『呪怨』パート3割、ってところかな。

 ここから、この2つの世界を結ぶキャラとして、異端の霊能者・常盤経蔵(安藤政信)が登場する。彼には盲目の少女・玉緒(菊池麻衣)という助手がいて、ふたりのやり取りはあたかもブラックジャックピノコのよう。そして何故かとても強い。彼ならばどんな悪霊でも退治してくれそうな安心感を与えてくれるキャラだった。そんな経蔵が、「貞子」に殺される直前の法柳の依頼で有里らと合流。死期が迫った夏美と、彼女を助けたい一心で、かの「呪いのビデオ」を観てしまった有里を救うべく、玉緒と共に策を練るが、死の恐怖に狂った夏美が、あろうことか「呪いのビデオ」をネット上にアップロードして、その後呪いで首つり自殺を図ったことで、事態は最悪の状況に陥ってしまう。

 そこで経蔵は、かねてよりレクチャーしていた「呪いの家」の怨霊と「貞子」とを戦わせることを思いつく。折も折、少年のことがどうしても気になり、ついに「呪いの家」に足を踏み入れてしまった鈴花は、そこで最凶の怨霊「伽耶子」と遭遇してしまう。彼女は父母(松島正芳・田中美里)の捨て身の救助によって、何とか「呪いの家」から脱出するが、有里(そして夏美)と同様、「伽耶子」という怨霊に取り憑かれてしまった。そこで経蔵は究極の選択を思いつく。有里を「呪いの家」に入らせ、鈴花に「呪いのビデオ」を見せることによって、2人を「貞子」と「伽耶子」に奪い合わせる、という策だ。決死の覚悟で臨んだ2人の行動によって、経蔵の思惑通り、「貞子」と「伽耶子」は激しいバトルを展開する。ここのシーンは怨霊らしからぬ本当の肉弾戦で、「怪獣プロレス」を彷彿とさせる激しさ・わかりやすさだった。

 だが戦いの過程で、この最凶怨霊対決は、いつの間にか怨霊同士の融合という、訳の分からない事態に突入し、そのあおりで頼みの経蔵は胴体真っ二つにされて絶命。「貞子」と「伽耶子」はその後も融合を続け、もはや原形をとどめないくらいいびつなモンスターに変貌を遂げ、そこに「俊雄」も加わって、もはや『オール怪獣大進撃』の如き様相を呈していった。そこで唐突にエンディング。真っ暗な画面に聖鬼魔Ⅱのシャウトの利いたハードロックのエンディングテーマが流れてくる。しかも歌詞はしっかり貞子のことを歌っている! いやはや、凄まじかったなぁ(;^_^A

 ホラーのVSモノといえば、『フレディvsジェイソン』がまず思い浮かぶが、あのストーリーも、フレディがジェイソンを蘇らせて悪巧みを図るが、結局制御しきれなくなって……なんて話だったと思うが、ことこの『貞子vs伽耶子』に至っては、看板に偽りなき、正真正銘の“ガチンコバトル”だったんで、観ていて胸のすくような思いだった。まるで往年のプロレスにおける「ブッチャー対ザ・シーク」戦のような悪役対決を観るようで(;^_^A Jホラーも、陰湿でジメジメした怨念を描くよりも、こんな抜けのいい豪快な“力業”の作品をもっともっとたくさん製作してほしいな(;^_^A

 ちなみに本作を撮った白石晃士監督と言えば、かつてひろしま映像展に出品したフェイクドキュメント『暴力人間』を観たことがあったが、とにかく演技の凶暴さに圧倒され、目を覆いたくなるような展開ながら「結末まで観ざるには終えない」という強迫観念で最後まで観切った記憶がある。あのときのパワーは全然衰えていないなぁ(;^_^A