神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

“TV”の長井頼子は儚くも切なく……

 長らく朝日新聞社系列ながらTBSのネット局だったABC(朝日放送)と、同じく毎日新聞系列ながらNET(テレビ朝日)のネット局だったMBS毎日放送)が、75年3月のネットチェンジによって“元の鞘”に戻った際、TV界では大きな地殻変動が起こった。その余波で、TBSで毎週土曜日22時より放映していたABCの「必殺シリーズ」がテレビ朝日に“引っ越し”てしまい、同枠には俄仕立てのど同様作品『影同心』『影同心2』『隠し目付参上』『江戸特捜指令』と時代劇が続き、その果てに登場したのが、角川春樹事務所が共同企画した『横溝正史シリーズ』だった。

 当時、角川映画の『人間の証明』に痛く感動していた私は、その先に「森村誠一シリーズ」を大いに期待したのだが、その期待に違わず、全六作の「横溝正史~」を経て、「森村誠一シリーズ」はスタートした。しかし扱う作品が『腐食の構造』『暗黒流砂』と何とも重く閉鎖的な作品ばかりで、小椋圭の歌うエンディングテーマ「心のひだ」のけだるさと共に、なかなか食指が動かなかった。しかも期待した『人間の証明』もまた、原作・映画版とは異なり、犯人の娘役(岸本加世子のデビュー作!)を主人公に据えて、全般彼女のモノローグで構成されていく、という展開について行けず、結局殆ど観ることはなかった。

 やがて再度「横溝正史シリーズ」を挟んで、今度は『青春の証明』『野生の証明』の2本が“青春シリーズ”として放映されたが、初映像化の『青春の~』も往年の女優・有馬稲子にそのまま若い娘の役をさせる無理さについて行けず、また『野生の~』も映画のダイナミックさにはとても叶わず、どちらも重くやはり氏独特の不条理・閉塞・もぞかしさに包まれたストーリーだったので、結局ここでも殆ど観ないままに終わってしまった。もっとももしもっと当時の私の年齢が高かったら、それなりに観ていたかもしれないけど……

 ところで、そんな期待通りにならなかったもぞかしいシリーズだったんだけど、何故か『野生の証明』のエンディングテーマだけは、今観ても胸がキュンと切なくなってしまう。曲が、というわけはなく、文字通りそのタイトルバックの映像に対してである。主人公の長井頼子が、真っ赤な夕日を背に、』ただ歩いているだけの映像なんだけど、元々陰惨であったり権力の横暴であったりと、何かと重く沈みがちなストーリーの中で、このカットは一服の清涼剤の役割を果たしていたのかもしれない。まさに“口直し”の様な意味合いで……

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 ちなみにこのTV版の長井頼子を演じたのは三輪里香という女優。かの映画版『野生の証明』における頼子役のオーディションでは、監督の佐藤純彌が一押しの子で、薬師丸ひろ子と最後まで競った女優だったが、薬師丸の将来性に着目した角川春樹が、如何に佐藤を説得すべきか苦慮するエピソードが、かの「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」に興味深く描かれていた。