神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

女版「多羅尾伴内」の顛末

 前(日)述の通り、『華麗なる追跡』で主演の志穂美悦子は、鈴木則文監督の絶妙の演出もあって、見事に“女版多羅尾伴内”を演じきった。クライマックスの洋館で、突如階段に躍り出た「カンボジアの御仁」は、いきなりかの片岡千恵蔵御大の名台詞「ある時は~またある時は~」とうそぶき、老婆の仮面(しかもボディダブルではなく自ら施した老婆メイク!)を脱ぎ捨てるや否や、その実体である華麗な捜査官・八代忍に変貌する。そのシーンは万人にとってまさに拍手喝采の場面なのだが、唯一それに異を唱えた人物がいる。その人こそ、かの「多羅尾伴内」の生みの親である脚本家の比佐芳武氏である。

 無断で「多羅尾伴内」の設定を借用したことで激怒した比佐氏の下に、あわててわびを入れた鈴木監督等は、その誠意ある対応に気をよくした比佐氏に受け入れられ、しかも彼が助監督時代から比佐氏に面識があったことも幸いして、氏から自分の原作をどれか使ってリガを撮っていいとまで言われることになる。そこで鈴木監督が制作を乞うたのが、何を隠そう『多羅尾伴内』のリメイクだったのである。

 その際比佐氏は、『多羅尾伴内』」の成功は演じた片岡千蔵御大のキャラクターあってこそであり、リメイクにはそれ相応の役者を据えなければ、との危惧を抱いたらしいが、その期待に応えるべくキャスティングされたのが、かつて日活の無国籍アクションで大活躍した、我らが“マイトガイ”こと小林旭であった。撮影現場に片岡千恵蔵御大自ら表敬訪問に訪れ、マイトガイも恐縮することしきりだった、なんて心温まるエピソードもある。

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 そう言うわけで、換骨奪胎ではないが『華麗なる追跡』に端を発して、ついに鈴木則文監督の外連味たっぷりな(そしていつもの社会批判も交えた)演出が光り、マイトガイが華麗なる七変化を遂げる新『多羅尾伴内』はここに完成した。そしてマイトガイ主演のこの作品はシリーズ化されたものの、生憎続編となった『鬼面村の惨劇』(こっちも個人的には大好きなんだけど)は、山口和彦の玄人受けするマニアックな演出が災いしてか、思うように動員成績が伸びず、当時の移り気な東映幹部の決断によって、2作でシリーズを閉じることになった。こんなことを書けば“たられば”になってしまうけれど、もし、2作目がいきなり“変化球”な『鬼面村の惨劇』ではなく、一作目と同じ鈴木則文監督演出による王道ストーリーだったならば、もっと続いたんじゃないか、って思うと残念でならない。

 やはりこれも、昭和の末期が生んだ“徒花”の一つだったのかも知れない。ちなみに“女版『多羅尾伴内』:の方は、『キューティハニー』『華麗なる追跡』を経て、現在拙作『天使諜報★神宮寺真琴』シリーズに受け継がれている(;^_^A

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