『青空エール』
母校の初戦敗戦で興味関心がやや薄れてしまったが、この熱い“夏の甲子園”全国高校野球選手権は続いている。そんな折も折、観たのが『青空エール』。高校球児と吹奏楽部員とのほのかな恋を軸にした、弩ストレートな“青春”映画だった。本来ならば決して食指が動かないであろうこの作品を、それでも最後まで観てしまったのは、現在進行形の“甲子園の熱気”に中てられたのは勿論だが、土屋太鳳演じる主人公・小野つばさが「甲子園のブラスバンドに感動して、初心者ながら『高校野球の応援』のため吹奏楽部の門を叩く」という設定に、いたく共感したからかもしれない(;^_^A
主人公は上記の様な理由で強豪吹奏楽部に入部してしまうのだが、彼女は同時に、クラスメートで甲子園を目指す山田大介(竹内涼真)と“友達以上恋人未満”の関係になってしまい、そこから大介の甲子園に向けての、そしてつばさの(新たな目標である)吹奏楽部としての全国大会出場を目指しての、山あり谷ありのドラマが展開していく。
それにしても、土屋太鳳の「のろまな亀」ッぷりな演技は特筆すべきもだった。実際はキレッキレのアクションも披露するほど身体能力が高い子なのに、ウブで内向的でひ弱な役をやらせても天下一品の芝居をする。本作でも、強豪吹奏楽部に、しかも野球の応援のために初心者で入部する役を、いかにもそれっぽい雰囲気で演じ、案の定、バカにされたり邪魔者あつかいされたり意地悪言われたり、果ては感情の高まりからとはいえ一番信頼していた先輩から刺々しく罵倒されたりと、散々な目に会い続ける。しかしそれでも堪え続け、努めて明るさを失わない姿は、あたかもスポ根ドラマである(思えば、彼女が主演するドラマ『チア☆ダン』もそんなノリかな)。
しかしながら、ドラマが進行して行くに従って、登場人物がどんどん“いい人”“理解者”に変貌していくのもこの映画の特徴で、そこら辺が、本作を「弩ストレートな青春映画」と言い切る所以である。文字通り「のろまな亀」の彼女の頑張りは後半まで殆ど報われず、その点から考えると重苦しい展開なんだけれど、それぞれ悩みを抱える登場人物たちが、彼女の天然な(時として大変迷惑な)行為によって逆に癒やされていく、という、あたかも彼女が“天使”のような存在と化すのは本作品の特徴、というか作り手の良心のように感じられる。ここからはネタバレになってしまうけど、結局大介は途中の負傷を克服して決勝戦で逆転サヨナラホームランを打って甲子園出場を果たし、つばさも、最初は外されたコンクールのメンバーに復帰し部は県大会金賞の栄光に輝き、吹奏楽の“甲子園”である「普門館」への出場を果たす。そして二人の愛も成就する、という典型的なハッピーエンドで幕を閉じる。
劇中、主人公・つばさを心身共に支える同級生や、大介とバッテリーを組むちょっとおどけた親友、部内で当初はつばさを否定するがやがて心を通わせるエリートトランペッター、彼女らに辛く当たる木管パートの部員たち、情熱的な顧問、大介を慕い最初はつばさに敵愾心を燃やす野球部の後輩マネージャー、そして何かと「金食い虫」の吹奏楽部を目の敵にする教頭といった、「青春・学園映画」にありがちなベタなキャラクターが登場し、しかも頑なに敵役を務めた教頭以外、みな“いい人”になって、しかも文句なしのハッピーエンドを迎える本作は、まさに若者から“元若者”まで楽しめる、ノスタルジックな雰囲気も持った、ノンストレスなエンターティメントだったといえる。同じ野球テーマでも韓流映画『スーパースター☆カムサヨン』とは真逆の展開だ。またこの映画は「あくまで高校球児とスタンドで応援するブラスバンドの映画だ」と言わんばかりに、もう一つのクライマックスであるつばさたちの県大会金賞のシーンが本編ではなく、エンディングタイトルバックが流れる中で、小さい画面でインサートされる、っていい“徹底ぶり”も小気味よい。
今まで、最近の“青春映画”は自分の毛色に合わないと敬遠してきたが、こんな作品を観させられると、ついまた探してみたくなったよ(;^_^A