神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『アントマン』~ほのぼのドラマを凌駕する「量子世界」~

 大昔、アニメ(当時は「テレビまんが」)の主題歌に「アンアンアンアン~アア~ンアン~♪」なんてのがあったけど、これは1966年頃に放映されたアメリカのアニメ『怪力アント』のOP(歌タイトルの方は「鉄腕アント」)で、その続きは「ア~ントア~ント蟻んこアント~♪」で、文字通り原子の力を身につけた蟻が主人公のアニメだったと記憶している。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の『アントマン』のタイトルを観た時、何故か前述の歌詞が脳裏をよぎってしまったよ(;^_^A

※今回は結構ネタバレあり、ご注意を(;^_^A

 ところで本作は、科学の力によって、体のサイズを自由に出来るヒーローが登場する映画だが、それ故タイトルの「アント」とは、小さいヒーローの比喩表現だと思っていた。しかし観賞すると、そのタイトルの名に恥じない、しっかり「アント」も大活躍する作品だったよ。

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 主人公のスコット・ラング(本作の脚本にも関わったポール・ラッド)は正義感の強いエンジニアだが、その正義感によって、悪徳業者を“過剰に”成敗したのが災いして、3年間服役することに。その結果、妻子には逃げられ、最愛の娘ともろくに会うことが許されず、前科者故仕事にも就けず、絶望的な日々を送っている。そんな中、ムショ仲間と窃盗を起こすべく侵入した邸宅で、彼は金庫から金品ならぬ不思議なスーツを見つけてしまう。そのスーツは、実は邸宅の主であるピム博士(マイケル・ダクラス!)が開発した、分子と分子の隙間をコントロールすることによって身長を自在に変えられる特殊な“アントマンスーツ”で、何も知らずにそれを着用したスコットは、いきなりミクロの世界に陥ってしまう。

 何とか無事に現世界に戻ったものの、家宅侵入の罪で再び収監されたスコットだったが、何と彼の身元引受人になったのは被害者であるはずのピム博士。実は元S.H.I.E.L.D.エージェントであり、このスーツを使って“初代”アントマンとして活躍したピム博士は、このスーツの軍用使用を危惧して、このテクノロジーを持ったままS.H.I.E.L.D.を離脱、自らの社を立ち上げて密かに研究を続け、職場そのものは助手のダレン・クロス(コリー・ストール)を後継者に指名する。しかし信頼していたダレンは、自分の知らないところでピムが行っていた研究に興味と野心を持ち、何故かピムの娘でありながら父親と敵対するホープエヴァンジェリン・リリー)と結託して、ピムを社から追放する。そして、ピムのアントマンスーツを真似て独自で制作した“イエロージャケット”を軍用として、あろう事かかつてS.H.I.E.L.D.を支配していた悪の秘密結社ヒドラのエージェントに売りさばこうとしていた。

 ダレンの野望を知ったピムは、和解した娘と共に、スコットを使ってダレンからイエロージャケットを奪い取ることを画策する。そこで登場するのが「アント」こと蟻たちである。文字通り“アント”のサイズまで縮小したスコットは、どういう仕組みか知らないが、蟻を自由自在に操る精神性を身につけ、それによって蟻の大群を従えたり、自らは羽蟻に跨がって自在に空を駆け巡る。そんな蟻たちや、ムショ仲間の後方支援、そして彼自身の機転も相まって 、イエロージャケットの開発に必要な施設を破壊することに成功する。しかし唯一の試作品を持ったままダレンは逃走。そこからダレンと彼を追うスコットとの攻防がクライマックスに用意されている。

 劇中、スコットを慕う愛娘との心温まる交流とすれ違いが実にほのぼのとしており、これまでのMCUのヒーローたちとは違った、等身大の人間像が描かれている。また、他のキャラクターも何とも人間臭く、シリーズの他作品とは明らかに一線を画している。しかし本作には「量子世界にまで縮小すると二度と元に戻れなくなる」というハードな設定もあり、事実イエロージャケット(ダレス)との闘いに於いて、自らを量子レベルに縮小して分子と分子の間からイエロージャケットに潜入するという捨て身の作戦を実行したスコットが、ダレスの撃退に成功するものの、量子世界をさまよってしまうシーンは、かなりの恐怖である。『ドクター・ストレンジ』のサイケでカオスな世界感とはまた異質の、静寂な宇宙を彷彿させる絶望的な世界を漂うスコットのシーンは、それまでのどこかおちゃらけた世界感が噓のように、息詰まる緊張感に包まれる。しかしすんでの所でそこから脱出するのは、やはりMCUならでは「安心感」で、一応のハッピーエンドを迎える。

 もっとも、スコットのその量子世界からの奇跡の生還は、実はピム親娘に別の意味で波紋を投げかける。その謎は、本作の続編でもある『アントマン&ワスプ』のテーマとして描かれることになる。


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