『LIVE FOR TODAY-天龍源一郎-』
前記の「世界オープンタッグ選手権」で、ロッキー羽田と共にタッグ参戦した天龍源一郎。当時は相撲の突っ張りを応用し、相手をリングの対角線まで追い詰める「天龍チョップ」ぐらいしかイメージが沸かなかった若手の天龍が、その後「天龍革命」→「SWS」→「WAR」を経て、うんと逞しくなり、遂に「ミスタープロレス」の称号を得ることとなる。同期の盟友「鶴藤長天」のうち、藤波と鶴田は組織内にとどまり、長州は己の欲望の命ずるままに、各団体を転々とするなか、天龍だけは敢えて“茨の道”ばかり選んでいたような気がする。そんな天龍の逆境・反骨心に惹かれ、私はWAR時代の天龍を贔屓にして、専ら「週刊ゴング」の方を好んで愛読していた。
最近はなかなかプロレスを観る機会もなく、昭和や20世紀の時代に思いを馳せることしかなかったが、当時活躍していた馬場も鶴田も三沢も橋本も冬木も木村も大熊も剛もマードックもウイリアムスもアンドレもビガロもベノアもオブライトもベーダーも……次々に鬼籍に入る中、未だに天龍は、娘と二人三脚で「天龍プロジェクト」を立ち上げ、生涯現役を貫いて「昭和プロレスの生き証人」として活躍し続けていたことは驚異に値する。そんな天龍もついに2015年をもって引退となったがり、その引退ロードをドキュメントしたのが、彼の唯一の主演映画『LIVE FOR TODAY-天龍源一郎-』である。
この映画では、天龍の人となりや交流に重きを置いていて、試合の中継はラストマッチのオカダ・カズチカ戦以外は、ダイジェストとさえ呼べないくらいしか挿入されていない。だが、彼の、殆ど字幕に頼るしかないくらいのハスキーボイス(ダミ声?)で語られる、独りよがりではあるが含蓄ある言葉に、いちいち胸が熱くなってしまう。勿論彼の一本気な性格によって、周りのモノは割の合わない宿命を背負わされたり、貧乏くじを引かされたりしただろう。しかし、こんな不器用な、それでも決してぶれない性格、武骨な振る舞いの中に見え隠れする律儀さや優しさ……それこそアントニオ猪木の真逆に位置するようなすがすがしさに、皆惹かれて彼を慕うのだろう。彼の言動を見聞きして、その思いは強くなった。
日本レスラーで唯一馬場と猪木からフォールを獲ったのみならず、メジャーもインディーも、女子プロも、電流爆破も、果ては「ハッスル」に至るまで、それこそ「腹一杯」にプロレスを堪能し、且つ盛り上げてきた姿には、カープの新井ではないが「他欲」という言葉が似合いそうだ。
それにしても、私の脳裏には、切羽詰まって「天龍チョップ」を繰り出していた、デビュー間もない頃の初々しく垢抜けない天龍源一郎の姿が克明に残っているので、「あの天龍」と「今の天龍」とがどうしても結びつかない。でも今「プロレスクラシック」で観ている70年代の天龍の躍動感も観ていて愉しいし、現役晩年の凄みと味を醸し出す天龍もまた憧れだった。