神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

ギンギンギラギラ! 『暴走パニック大激突』

 一昨日のことだけれど、CSで深作欣二監督の『暴走パニック大激突』が放映されていた。CS(日本映画専門チャンネル)とはいえ、この作品がTVの電波に載った(それも「東映チャンネル」でもなく)という事実にただただ感動し、本作を現在の映画制作のバイブルのように考えている私にとっては、至福の2時間弱だったよ! 勿論“完食”いたしました(;^_^A

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 この作品に対する私の思いは後述するにしても、改めて拝見して、この作品こそ、深作監督の後の傑作『いつかギラギラする日』のタイトルが似合う作品だと確信できた。主演の渡瀬恒彦は当然ながら、出演する杉本美樹、川谷拓三、室田日出男風戸佑介小林稔侍、潮健児三谷昇に至るまで、みんなギラギラしている……っていうかエネルギッシュにギラギラしすぎな素晴らしい演技を魅せてくれる! 泥臭く、且つ凄惨……でもそれでいて爽快感溢れるハッピーエンド(主人公にとって)を迎えるという、"奇跡"のような逸品だ!!!!

 後にwikiで、本作が本当に『いつかギラギラする日』の原型ともいわれる、との説を知り、大いに納得できた(;^_^A

 以下に私の本作への思いを記述する……

 『暴走パニック・大激突』は、深作監督が一連の『仁義~』シリーズを撮り終えて後に撮った、本当に異色作である。当時(70年代後半)は、ハリウッドから数多の“パニック映画”が流入していた時代で、東映でも『新幹線大爆破』(新幹線に一定の速度以下になると爆発する爆弾が仕掛けられるという、ハリウッドの『スピード』を先取りした作品)を始め、いくつかのパニックものが作られたが、中でも本作品は、ラストに向かって正真正銘“パニクって”いく映画として、大いに楽しませてくれる作品である。

 ストーリーは、渡瀬恒彦演じる銀行強盗・山中が、最後の仕事で仲間(小林稔侍)を事故で失い(この時トラックに轢かれた血塗れ稔侍の“ボロ切れ”具合が最高!)、 それが元で警察に身元がばれたため、国外逃亡を試みるも、盗んだ金をハイエナのように狙う仲間の兄(室田日出男)や二人のカーチェイスに巻き込まれて完全にキレてしまった欲求不満ダメ警官(川谷拓三)に執拗に追われるという設定を軸にしながらも、様々なエピソードが微妙に絡み合い、その全てを飲み込むように、ラストの一大カーバトルに雪崩れ込んでいくというものだ。それぞれ独立した形で主人公に関わっていくエピソード群も強烈で、この点が本作品をますますエゲツないものにしている。

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 山中の元に転がり込むミチ(杉本美樹)は、市役所の戸籍係(三谷昇)に一方的に惚れられて勝手に籍を入れられてしまう(それが元でこの男は役所をクビになる)薄幸の女で、結局最後まで山中と行動を共にする。戸籍係の男は、死ぬまでミチの影を追い続けるわけだが、ここでの三谷昇の演技が最高で、いつも素面なのか酔っているのかわからないようなネバい台詞をブツブツつぶやき、挙げ句は山中の居所を探す室田日出男を“自分のミチ”の許につれていくも、それ は彼が撮ったヌード写真で、怒りに逆上した室田に胸倉を掴まれて頸の骨を折られて死んでしまうという、あまりにも哀れな人生を見事に演じている。特に、室田の怒りを後目に、ミチの拡大写真に向かって
 「ミチィ~ ミチょオォォォ~」
とつぶやきながらキスの嵐(というよりは舐め回し)を浴びせるネバい姿は、最高にいかがわしい。

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 川谷拓三演ずる警官は、出世コースからすっかり後れをとって、元同僚から今やアゴで使われる始末。只でさえ欲求不満が溜まっているところに、今度は愛人の婦人警官を後輩に寝盗られてと怒りは最高潮。そんな折りに逃走中の山中らにパトカーに当て逃げされて、彼は完全に“プッツン”きてしまう。徐々に凶暴性をむき出していく川谷拓三の姿は、書籍その他で本当の彼のストイックな内面を知っているだけに、開放的な役回りで逆に何だか嬉しい。

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 自動車整備工の美青年(風戸祐介)は前科者で、赤いスポーツカーに心を奪われている。それが高じて、得意先の整形外科医(林彰太郎)の愛車にこっそり傷をつけては、自分の勤める整備工場で直すという日々を送っていた。そんなある日、いつものように修理にやって来た外科医に、自分の犯行を目撃されていたことを告げられた青年は、逆に脅迫され、あろうことかラブホテルへ連れ込まれてしまう。何とこの外科医は男色家のサディストというとんでもない男で、以前から目をつけていた美青年を我が物にすべく、スポーツカーを使って彼のいうところの“真っ赤なワナ”を仕掛けたという訳である。この時の林彰太郎の演技がまた絶品で、美青年にタイトな誂え服を着せ、その背中に釘を立てて引き裂きつつ、喘ぐように「君はねェ、もうボクのモノなんだよォ~」とエヘラエヘラしながら舌なめずりする場面など、気持ち悪さを通り越して、可笑しささえ感じてしまう。当時の東映のこの手の作品には、このように権力を持った男色家(決して“ホモ”とか“オカマ”などという小綺麗な言葉では到底表現し得ない)が変態として登場することが多く、同じ深作作品の『ドーベルマン刑事』にも、男色家の歌謡大賞審査委員長が現れ、自分の飼っている若手男性アイドルを他のプロダクションの男に奪われて狼狽するシーンなどがある。結局この外科医は、思い余った青年に殴り殺されて血塗れの骸を晒すこととなり、逃げ出した青年も、やがて山中たちのカーチェイスに巻き込まれて、ダメ警官のパトカーに轢き殺されると云うショッキングな最期を遂げてしまう。

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 このような人間模様が織りなされる中、3人のカーチェイスは道中で数多くの車を巻き込み、やがて数十台にも及ぶ狂乱の追跡劇=カーバトル(出てくる車は、壊すことを前提にしてか、75年当時としてもかなり古い車種ばかりで、今観ると逆にプレミアムがつきそうなものばかりだ)を繰り広げていくわけだが、ここでバトルに新たに加わる“MHK”移動中継車(これも旧型ワゴンの屋根にテレビアンテナを施したという、極めてチープなもの)の存在も忘れてはならない。

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 元々、暴走族の青年たちへのインタビュー番組を取材中だった中継隊の許に、突如カーチェイスの集団が乱入! 急遽番組変更ということで、彼らも集団に身を投じていく。ここでMHKのインタビュアーを演じるのが“地獄大使”こと故潮健児御大で、およそその風貌からは似つかわしくないアナウンサー役を、黒縁眼鏡と極めて誠実な言動によって熱演し、状況の余りの混乱ぶりに時折思わず口が滑って放送禁止用語(××沙汰等々)を連発するも、「暴走する青春を取材中の私たちは、ここに図らずも暴走する現代社会のそのものの断面にぶつかったと申してよいでありましょうォ~!」などとカッコいい台詞を吐きながら集団を追っていくことになる。このアナウンサーは、ダメ警官に「このバカ放送ッ!」と罵倒されようとも、 「警察はこのような事態にも、冷静沈着に対処しております」と実況し、常にストイックな冷静さをアピールし続けるが、ラスト近く、放送中止の連絡を受けた途端、今までの鬱憤が爆発して、中継車のハンドルを奪うと「何がバカ放送だ! MHKを馬鹿にしやがって!」と、パトカーの一団に突っ込んでいくという狂態を晒してしまう。

 最後の広漠たる埋め立て地で展開するカーバトルは、もはや収拾のつかなくなった、正に“暴走パニック”で、それそれの思惑さえも飲み込んだ“総マジキレ状態”での脈絡ないカークラッシュ・炎上を繰り広げる。そこへたどり着いた応援のパトカー群も徒に衝突を繰り返し、消防車の放水も火災現場ではなく人間に向かって発射される混乱ぶり。その中で、主人公の山中とミチは、何故か停泊していたモーターボートに乗り込んでまんまと逃亡を果たすというラストが用意されていて、一応のハッピーエンドで幕を閉じる。更に字幕で、その後彼らと思しき男女二人組の強盗が南米ブラシルで銀行強盗を働いたとの後日談も語られて、サービス満点の作品である。

 とにかく、ストレスが溜まった時、恋人にフラれた時、そして世の中がイヤになった時、是非観てもらいたい逸品だ。