神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『愛と誠』  ギラギラした昭和オペレッタ

 私が物心ついた頃、広島の街には未だに被爆直後の混乱期の名残のようなトタン板のバラック元安川周辺に建ち並び、デパートの前では足を失った傷痍軍人が軍服を着たまま物乞いをしていた(今思うと太平洋戦争従軍者にしては若すぎていたような気がするが……)。広島は75年の広島カープ優勝という“エポックメイキング”の前と後とでは大きな歴史の変化があったと、個人的には思えてならないんだけれど、その前の猥雑ながらえもいわれぬパワーに充ち満ちていた頃をやけに懐かしく感じることがある。
 
 昨晩CSで観た三池崇史版『愛と誠』。これにはぶっ飛んだね! なんて凄い映画なんだって……まさに“ギラギラした昭和オペレッタ”ともいうべき破天荒な作品だったよ。これを観た衝撃は、もううんと前に“広島デザイン会議”の一環で、生前のマキノ監督をゲストに招いて上映された『鴛鴦歌合戦』(1939年)を観賞した時以来かもしれない(これはこれで、戦前に製作された「時代劇オペレッタ」だったけど……)。
 
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 時代設定は、原作の、そしてかつて映画化された70年代の雰囲気をそのまま……否、“極彩色”に強調して描いていた。流れる歌は皆、我々の世代にとっては涙無くして聴けないよない昭和歌謡の数々。それを馬鹿馬鹿しいまでに、且つ大まじめにキャストが踊り歌う。何かもう、「誰にも止められない」勢いを感じさせる。観ているうち
に、「これってギャグ映画なんだよね」と自問自答している自分がいたよ。
 
 この映画の最大の功労者は何といっても武井咲演じる早乙女愛。そのハチャメチャな自己陶酔に尽きる。愛が後半、高原由紀率いる花園高校スケバン軍団に拉致されるシーンがあり、そこで彼女はかなり過酷なリンチを受けたり吊されたり、果ては身を挺して由紀のナイフ攻撃を浴びたりするが、不思議なことに全然悲壮感が沸いてこない。それはこの作品がまさに“マンガ”のような荒唐無稽さに包まれているからでもあろうが、主人公であるはずの愛に対してどうしても感情移入が出来ないことが大きな理由のように思える。誠への一途な愛がいつの間にか自己陶酔に変わっていき、それが大賀誠を更に苦況に追い詰めてしまう。誠との全くかみ合わない会話がまさにその真骨頂である。そんな愛の自己陶酔に、誠はおろか登場人物の全てが巻き込まれていく。彼女の存在自体が“昭和オペレッタ”そのもののようだ。全く、武井咲にこんなコメディエンヌの才能があるなんて知らなかったよ
 
 また、スケバン・由紀を慕う粗暴な男・座王権太役に伊原剛志を配する辺りなど、三池監督の“確信犯的”演出
が随所に感じられる。もう、小ネタのオンパレードだ。スケバン軍団のガム子が「もうここらあたりが潮時か」とうそぶいて、トレードマークのガムを吐き捨て、更正への道を突き進む中、尾崎紀与彦の「また逢う日まで」を歌い上げるシーンも捨てがたい魅力に充ちている。他にも石清水が愛を前に、「空に太陽があるかぎり」(にしきのあきら)をギトギトに熱唱しながら求愛するシーン、前出の権太が軍団引き連れ「オオカミ少年ケンのテーマ」を振り付けで歌う(一番ミュージカル的な)シーン、誠の母親が「酒と泪と男と女」(河島英五)を“ベタすぎる”シチュエーションで唸るシーンなど、ミュージカルシーンのすさまじさは枚挙に暇が無く、それが、アイドルのミュージックビデオのごとき、愛の歌う「あの素晴らしい愛をもう一度」によって結実する。
 
 全編を見ていると、本来破天荒なキャラのはずの誠が一番まともで、いわば石井輝男映画の吉田輝雄のごとき「狂言回し」に見えてくる。でもそんな彼も西城秀樹の「激しい恋」をノリノリで歌ってるんだよな……もっとも、どの曲も我が心の琴線に触れるものばかり。思わず一緒に口ずさんでしまって泣けそうになったよ
 
 ストーリーに関しては、原作の全編を通じて"お色気担当"だったグラマラスなハーフ美女・アリスは出て来なかったし、拉致されるのもそのアリスから愛に変わっていたし、そもそも拉致するのは本来スケバン軍団ではなく砂土谷峻率いる緋桜団のはずだったりと、原作とは異なる設定も多い。まあ、この作品はそんな予備知識がなくても大いに楽しめるが、物語が破綻しそうになるので、そこら辺りのストーリー展開を知っておくと、何とかついていくことが出来そうだ。
 
 そんなハチャメチャな“喜劇"だっただけに、ラストが"優作"とは思わなかったよ。まあ、原作の方は、一応ラス
トは"優作"だったようなんだけど……
 
 私が覚えている"カープ優勝前"の広島(否、日本)の匂いを強烈に感じさせつつ、そのまんまであの頃だったらあり得ない映画に仕上がっている。「ああ、こういう映画こそ"ゴラク"だよなぁ」なんて気がしたね
 
 そういえば、70年代の映画で「大賀誠」を演じた西城秀樹加納竜って、共に広島出身なんだよね。もっともかの75年には、既に広島にはいなかったけどね………