神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『多羅尾伴内』の素敵なフォーマット

 最近、BSで愛川欽也が警部役を務めるドラマが放映されていたが、その劇中、彼の部下が携帯電話の着信を受け、「もしもし………何! ○○町で○○が刺し殺されたって!」って叫ぶシーンがあって、大いに驚いてしまった。件の部下は、電話口で「もしもし」の後に電話の相手から「○○町で○○が刺し殺された」という連絡を受けたのだろうが、当然ながら実際の電話の受け答えで、相手の言葉をおうむ返しに声にすることなんてあり得ない。まさに大昔の刑事ドラマが使っていた、陳腐な“お約束”の反応だ。さすがに最近はそんな陳腐なシーンをお目のかかることがなかったのである種新鮮だったが、どうもこのドラマ、愛川欽也自身が台本を書いていたらしい。
 
 さて、上記のように、黎明期のドラマ・映画には“予定調和”で陳腐な演出が多々あったが、上記のような“演出ミス”はともかく、敢えて“お約束”に拘り、それがいい意味で昇華した作品も少なくない。その最たるものが「多羅尾伴内」だと思う。
 
 GHQの指令によりチャンバラ時代劇が撮れなかった時代、刀ではなく投げ銭を駆使する「銭形平次」と並び、2丁拳銃で悪をなぎ倒す多羅尾伴内こと“正義と真実の使徒”藤村大造の活躍を描く「多羅尾伴内」シリーズは、初代・片岡千恵蔵御大の活躍もあって、当時を代表する娯楽活劇へと成長していった。
 
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 この映画の特徴は、何と云っても“しがない私立探偵”多羅尾伴内の変幻自在の変装につきる。しかも、この変装が実にチープで、観客からすれば全て片岡千恵蔵と分かり切っているのに、他の登場人物はそのチープな変装にまんまとダマされ、思わず「お前、いったい何者だ!」(実はこう言ってもらわないと、次の展開に進めない!)と口走ってしまう。この言葉に対するもったいぶった口上が実に“お約束”でそそられるのだ
 
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 こんな子供だましを大真面目に演じる……そのことこそが、本作を娯楽の殿堂にまで押し上げた大いなる魅力であった。ここら辺の感覚は「水戸黄門」「遠山の金さん」「暴れん坊将軍」といった人気時代劇にも通じるテイストである。
 
 昨今のリアリズムな感覚では、「もう、ナイナイ」と一笑に「付されてしまうこれらのドラマのノリだが、意外と一般の人には受けるようだ。だってTBSは未だに平日夕方に「水戸黄門」を再放送して、それが同時刻のバラエティーよりも高視聴率を上げている、という事実もあるし。
 
 常識でいえば目くじらを立ててしまいそうなこれら“お約束”を感情移入しつつ笑い飛ばす、そんな感覚こそ“高度な映画観賞”といえるのではなかろうか……