神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

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『火の鳥』~カタルシスなき超大作~

 1978年に公開された実写版の『火の鳥』(市川崑監督)をCSでようやく観賞。とはいうものの、既にうんと前地上波で観たことがあるので、最後まで観賞したのが初めてっていうこと。それにしても全編2時間17分てのは、いささか尺が長すぎたかな……

 脚本が谷川俊太郎って知ってまずは驚き! 詩人としては“超”がつくくらい有名だけれど、映画の脚本も書いてたんだ。それも市川崑監督作品が多い。そう言えば本作の原作者でもある手塚治虫のアニメ『鉄腕アトム』主題歌の作詞も谷川俊太郎氏だったっけ。

 今回は「若山富三郎劇場」の一環で放送されたわけで、当然本作でも主人公の一人・猿田彦を演じていたが、それ以外にも草刈正雄や仲代達也、高峰三枝子大原麗子林隆三加藤武江守徹大滝秀治伴淳三郎沖雅也草笛光子といった主役級の役者がそれぞれ主人公を演じているような、壮大だが収拾のつかない、物語もわかったようでわからない、そんな137分間だった。

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 高峰三枝子は、「ヒミコ」役を圧倒的な存在感で、しかも人間臭さも十二分に漂わせて演じきっているが、作品制作当時、年齢は還暦直前の御歳59歳。それでいて、色香を漂わせて天弓彦役の草刈を誘惑するシーンがあるからたまらない!(;^_^A

 本作がデビュー作で、クレジットも「尾美トシノリ」となっていた尾美としのりが、何とも初々しい姿で精一杯粋がった台詞を口走りながら、作品世界の"狂言回し"的な役柄を演じていたのは面白かった。確かその後鳴かず飛ばずだったのが、大林宣彦監督の『転校生』に抜擢されてから、"尾道三部作"他大林作品に欠かせないキャラクターになっていったはずだ。それにしても、彼のフィルモグラフィーの中で一番台詞が多かったのがこの『火の鳥』だったんじゃなかろうか。やんちゃぶりも本作や『転校生』以降、鳴りを潜めてしまったような気がするし。

 手塚原作という事からか、本作がアニメと実写の融合作品であることは有名だが、何だか強引に実写にアニメをぶち込んだような印象を感じた。中でも尾美がアニメの狼の群れと戦うシーンは、まさに「マンガ」であった。世相を反映してか。狼たちはピンクレディーの「UFO」のフリを始めてしまうし……意外と無機質で残酷な描写が続く中、一服の清涼剤のつもりでこの手の逆を挿入したのかも知れないけれど、この世界観の相違に観ていて戸惑ってしまった。残酷描写といえば、人間の惨殺シーンよりも、ヤマタイ国に攻め入った高天原族の騎馬隊と江守演じるスサノオが戦う際、スサノオの蛮刀が騎馬隊の馬の首をバンバン刎ね飛ばして描写がアニメではなく実写で描かれているシーンは、その刎ね飛ばされる馬の首があまりにもリアルな模型で出来ているせいか、昨今の『キル・ビル』のような「残虐だけど馬鹿馬鹿しい」ブラックユーモアにもなりきれていないシーン仕上がってしまっていた。

 作品の中心である「火の鳥」がアニメで描かれていたのは、この原作の世界観からすれば"アリ"だったんだろうけど、逆に作品世界をチープにしてしまった感がある。もっとも、それならば実写特撮で描けばよかったか、というと、CG技術がなかった当時の技術では、もっとチープなことになっていたかもしれないし……難しい問題かも知れない。

 ただ、主演俳優のそれぞれの存在感は抜群で、この部分を考えたら、今の時代ではなかなかお目にかかれない(しいて挙げれば『シン・ゴジラ』か)、大作の風格を持った作品に仕上がっていたと思う。惜しむらくは、もう少し物語や人間関係を精査して、わかりやすい作品にしてもらえたら良かったなぁ………あと、もっと「カタルシス」がほしかった。火の鳥の存在も今ひとつ作品世界に"確定"していなかったし、メインキャストが奮闘空しく討ち死にしていく中、大陸からの「侵略者」として描かれている、ジンギ(仲代達也)率いる高天原族の勝利で終わる救いのない展開は、やっぱり後味悪かったもの……


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