神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『Boys Don’t Cry』

 昨日の24日に映画『Boys Don’t Cry』(堀内博志監督)を観賞。この作品は元々「キャストサイズチャンネル」(ニコニコ動画内)での配信用に制作された映画だが、オール広島ロケということで、広島サイドの有志が企画して、この度広島限定で上映会が開催されることになった。そこには広島で活動する役者・俳優陣も多数参加していて、当方の作品にも出演しているキャストから誘われたのが縁で、この度観賞してきた。

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 内容は以下のような感じ。牡蠣工場で働く青年・勇人(本田礼生)が仲間の洋平(杉江大志)がとある組織の資金を横領したことで、組織の構成員・出口伊万里 有)拉致監禁される。出口は洋平の居所をしゃべらない勇人に業を煮やし、洋平の横領の代償として、勇人に一生マグロ漁船で働かせると凄む。しかし勇人はそれを受け入れ、その代わり、1日だけ時間がほしいと頼み、身代わりにと友人の千太(後藤 大)を呼びつける。意外にも素直に勇人の頼みを受け入れ、彼の“人質”となる千太。彼を置き去りにしたまま、勇人は自分がやり残したことを果たすべく、自分たちの借家のオーナーや、牡蠣工場の社長や仲間、そして別居中の母親の元に向かう……。

 制作サイドも明言しているように、この物語のベースになっているのは太宰治の『走れメロス』である。冒頭ではいかにも“軽く”無軌道な青年たちの刹那的な生活が描かれ、とても感情移入でそうもない展開だったが、軟禁シーン以後、意外に純な彼らの言動につい心惹かれてしまった。それまでのどこか無責任で白けた雰囲気が嘘のように。それこそ、ちゃらちゃらした外見からは思いも寄らぬ律儀で熱い心に、とでも言おうか。

 勇人の「やり残したこと」は“妹の結婚式出席”ならぬ、今まで関わった者たちへの惜別で、それも自分の未練を吐露するのではなく、あくまで残された者への思いやりだ。妹の身を案じてのお願いだったり、職場の同僚に迷惑を掛けないための退社挨拶だったり……唯一、再婚を控えた母親にだけは、自らの気持ちを整理するための別れの挨拶ではあるが、それとて泣きつくようなことはしない。一方の千太も普通に勇人のことを信じている以上に、彼に対する献身的な思いやりが胸を打つ。勇人と比べたら“チャラ男”キャラなんだけれど、そのあっけらかんとした性格はある種観ていて救いになったし、過酷な運命をケロッと受け入れてしまうところなど、ホロッとさせられる。

 勇人を見守る牡蠣工場の社長役を務めた往年の東映プログラムピクチャー界の大御所・成瀬正孝はやはり貫禄の演技だったし、勇人の母親役で出演する、広島演劇界の重鎮・川井真佐子嬢の憂いを含んだ演芸も特筆すべき好演だった。この2人に限らず、敵役の出口も至るまで、どこかやさしくて、ピュアで、しっかり『走れメロス』の世界観にマッチした作品に仕上がっていたような気がする。それと共に、これが虚構の映画世界だとしても「若い子ら立って満更捨てたモンじゃないな」なんて気持ちが湧いてきた。

 ところで、昨今広島でロケが行われる映画・ドラマが増えてきて、その都度見慣れた(そして当方の現場にも来てくれた)俳優が出演しているんだけど、こうやって地方都市にメジャー組織がやってきて、ただでさえ少ない役者をプロの現場でどんどん登用すればするほど、規模・資金力で劣る地元のインディーズ団体は存亡の危機を迎えるのでは、なんて危惧もするけれど、逆に「広島でも映画・ドラマに出演機会がある」ということで、東京や大阪のように、舞台演劇ではなくいきなり「映画・テレビ俳優」を目指す役者がこの広島でも増えていくかも知れない。そうなっていくと、地元インディーズムービーがいい意味で「マイナーリーグ」となって、「映画俳優」の活動の場を提供していければ、今の広島の事態は、むしろいい流れになっていく期待が持てる。舞台で演じる役者とはまた別に、カメラの前に立って演じることを目指す映画俳優というジャンルが広島に根付けば、それはまた素晴らしいことだと思う。その為にも、我々インディーズムービー制作者はもっともっと「映画の現場」を準備していかなければならないだろう。