神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『BLACKJACK 瞳の中の訪問者』~"映像の魔術師"の「デコレーションケーキ」~

 かつて、かの加山雄三が「ブラックジャック」を演じる連続テレビドラマでタイトルもズバリ『加山雄三ブラック・ジャック』ってのがあって、加山雄三が本当にあのブラックジャックのメイクで登場していた(もっとも、時として顔に傷がない姿でも登城する“ズルい”展開だったが(;^_^A)、その加山版ブラックジャック(特にメイク)に多大な影響を与えたと思われるのが、東宝映画『BLACKJACK 瞳の中の訪問者』である。

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 本作は、『HOUSE』でデビューした“映像の魔術師”大林宣彦監督の、監督2作目にして、且つ後に“2時間ドラマ女王”となる片平なぎさの映画初主演作でもある。本作でブラックジャックを演じるのが、何と宍戸錠! しかも実写初となる彼のBJメイクが何ともおどろおどろしく(本当ならば黒人の親友から提供された皮膚移植故、黒いはずの継ぎ接ぎの部分の顔の肌が、何故が“お岩”を彷彿させる青黒い肌になっている)、監督の前作『HOUSE』の流れを彷彿させる。これには原作の手塚治虫氏は激怒したらしい。

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 本作を「ブラックジャックが大活躍する医療ドラマ」と思ってみると、すっかり肩すかしを食らってしまう。私も、宍戸版BJの奇妙なメイクの印象が強く、彼のことしかイメージが沸かなかったが、今回改めて最後まで観賞して気付いたのは、実は彼は本作では狂言回しに過ぎず、主人公は専ら片平なぎさ演じる小森千晶であったということ。これでは確かにBJファンは期待はずれだっただろう。ただ、それだから面白かったわけだが……(;^_^A

 テニス練習中の不慮の事故で片眼を失明した千晶は、名医ブラックジャックの手による角膜移植によって視力を回復するが、それからというもの、何故か瞳の奥に見知らぬ青年の姿を観ることになる。恋人のテニス部コーチ・今岡(山本伸吾)や親友の南部京子(志穂美悦子)の心配を他所に、やがて千晶はその瞳の奥の青年に心奪われてしまう。そんなある日、街中で本物の青年と出会う千晶。彼は名を風間史郎といい、二人は共に惹かれ合っていく。しかし、千晶の幻影を怪しんだブラックジャックの調査によって、彼女に移植された角膜の主は、手術の2日前に殺害された主婦・楯与理子(ハニー・レーヌ)であることが判明し、物語は俄然サスペンスの様相を呈していく……

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 本作の魅力は、何といっても片平なぎさの初々しさに尽きる! 可憐で健康的な容姿に、時折狂気すら感じさせる潤んだ瞳は何とも素晴らしい。まさに清純を画に描いたようなキャラクターで、コーチの仄かな恋心を知りつつも、次第に瞳の中の青年への一途な愛を貫こうとする健気さも光っていた。その親友を務め、物語の顛末を見届ける志穂美悦子は、稀代の美形アクションヒロインだが、大林監督の思惑からか劇中全くアクションがなく、観ていて「どうしたんだ悦っちゃん! 何故闘わん? ここは『キョエー!』だろ!」って一人画面に向かって叫んでしまうような、普通の乙女キャラを演じていた。それもあくまで控えめで大人しく、千晶への同性愛すら感じさせる役周りだったように思う。それ故観ていて何とももぞかしく、劇中唐突に登場する酔っぱらい役のサニー千葉御大(友情出演)に絡まれ、そこに転がっていたフライパンで一撃を見舞うシーンで僅かに溜飲を下げることができたよ(;^_^A(ちなみに千葉チャンのシーンはここのみ。東宝に"越境"する愛弟子を慮っての出演だろう)。また、青年(実は殺人犯)として登場する峰岸徹は、純愛に苦悩する狂気の男をいつもながら安定した演技でこなしていて、これなら千晶が惚れるのも無理ないって思わせる好演だった。

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 作品世界も、原作の数多の物語の中で、敢えてこのエピソード(「春一番」)を選んだ脚本家・ジェームズ三木の慧眼もあって、医療ドラマと言うよりもサスペンスといった方がしっくりくる作りになっていて、それこそ今は亡き「土曜ワイド劇場」で普通に放映できそうな物語だった。大林監督演出も、意外に「粋」や「伊達」を感じさせる王道嗜好で画も安定していて、回想と現実が微細に織りなす展開も相まって、雰囲気的にも後の「尾道三部作」を彷彿させるよなエンターティナーな作品に仕上がっており、ラストへの盛り上げ方もワクワク感に満ちていて、思いがけず楽しんで観られた作品だった。今まで本作を"イロモノ"と思いこんでいた自分が恥ずかしいくらい。敢えて表現するならば「デコレーションケーキ」のよう。それもプログラムピクチャーとしてのB級アイドル映画の様相を呈した、"褒め言葉"としての「バタークリームのデコレーションケーキ」といった雰囲気だった。今回の観賞で、自分の中では大林宣彦監督作品としては、「尾道三部作」のすぐ下にランキングしたいくらい満足できる作品だった。

 封切時は、上記の手塚治虫氏の苦情が影響したのか、まだこの手の演出に観客が慣れていなかったのか、不幸にして封切2週間後に打ち切られた、そっちの方が「悲劇の作品」なんだけど、昨今はCS放映やDVD観賞という手段で再び脚光を浴びることが出来るようになったことは喜ばしい。自分自身も先入観を捨てて、いろいろ"雑食"していかねば、と改めて思ったね(;^_^A