神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

ヒロインアクションと『雪之丞変化』

 邦画の黎明期においては、歌舞伎の例に倣ったからか、女性の役も男優が演じていた。かつて長谷川一夫大川橋蔵が映画で、また美輪明宏がテレビドラマで演じていた『雪之丞変化』など、まさにその最たるものである。

 主人公の雪太郎が、濡れ衣を着せられて処刑された親の復讐のため、普段は女形(おやま)の役者・中村雪之丞という世を忍ぶ仮の姿を演じながら、親の敵を捜す、という物語で、“多羅尾伴内”“『華麗なる追跡』の矢代忍(悦っちゃん)”“キューティハニー”そして“「江戸川乱歩美女シリーズの」天知明智小五郎”に止めを刺す「ある時は~」の先駈け的作品だった。ただ、“男装の麗人”ならまだしも、晩年の長谷川一夫があの容姿でしゃーしゃーと女形の雪之丞を演じ、それを出る悪党共が揃いも揃って色目を使うという、強引すぎる“お約束”ぶりには、さすがに予定調和好きの自分にとっても、眉を顰めて失笑するしかなかったよヾ(--;)

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 一方、昭和初期から、舞台の世界では「女剣劇」なるものが隆盛を極め、不二洋子・二代目大江美智子らが戦前から台頭し、戦後になっては、今や強面のオバサンのイメージしかない浅香光代が活躍し、初期の単なる“見せ物”的雰囲気から、やがてはそれなりにきちんとしたものになっていたものの、「オイルショック」を迎える前に、全てが解散の憂き目に遭ったらしい。

 その女剣劇だが、メインは女剣劇士がヤクザや股旅ものを演じるという、用は男性の役を女優が演じるものが主流だったようだ。だから前出の淺香も得意は男役だそうで、ここに邦画黎明期と真逆な現象が起こっていたわけだ。

 この「映画(歌舞伎)の世界は女人禁制」「女は男装してアクションを演じる」という流れが、やがて邦画界のジャンターコードが外れた後も、アクションの世界において、女優は女性のままではヒーローを惑わす毒婦か物の怪の役でしかアクションシーンに絡むことが出来ず、男装して初めてヒーロー(ヒロイン)たり得た、という“邦画界の不文律”がいつの間にかその根底に脈々と横たわってしまったらしい。

 それは、美空ひばりの一連の時代劇、際だって彼女が中村雪之丞を演じた“ひばり版”『雪之丞変化』に顕著に顕れてるのだそうである。

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 「男優が女を演じる」と「女優が男として闘う」という邦画アクション界の不思議な表裏を『雪之丞変化』は内包している。