不気味なネオンと“ウツボカズラ”と……『マタンゴ』私感
実はこの映画、小学校低学年時代にTVで観てしまった経験がある。当時は“特撮映画”なんて発想はなく、怪獣映画以外は単なる普通の映画だった。だからこの『マタンゴ』も、当時は「わあ、東宝特撮変身人間シリーズだ!」なんて胸躍らせて楽しみにしていたわけではなく、ただ何となく観てしまって、あれよあれよという間に『仮面ライダー』っぽい(つまり等身大の怪獣)展開に驚き、且つ怪人マタンゴの不気味さのみならず、出てくる登場人物たちがいがみ合い罵り合うという“嫌な姿”をうんと見せられて、うんざりしてしまった記憶がある。子供心にも「あのキノコを食べちゃいけない」ってのは分かったけど、あの飢餓感も十分伝わってきた……
なんてこと書いたけど、正直一番インパクトを受けたのは、ラストで何故か、命からがら島を逃げ出した唯一の生存者であるはずの久保明が、あろうことが牢屋に入れられていて(後に精神病院の独房であることが判明)、しかも「誰も信じてくれない」とうそぶく彼の頬に、しっかりと(証拠とも言うべき)マタンゴへの変身の兆しが見えていたシーンだった。またそれ以上に不気味だったのが、その独房の先にあるネオン街。どうしてこんなに変に見えるんだろうって思うくらい凝縮した毒々しいネオンは、ある種トラウマのように心に刻み込まれてしまった(これまた、後に実景ではなくミニチュア特撮だったと判明)。

今回の観賞でも、さすがにラストを観ると、当時のトラウマが甦ってくる。あの後、久保明は果たして“マタンゴ化”したのだろうか? だとしたらあまりにも悲しすぎる。しかし、彼が“マタンゴ化”すれば、彼が体験した地獄のような体験を、皆が信用してくれるだろう……そう思うとあまりにも切な過ぎるラストシーンだったといえる。

また本作における水野久美の妖艶さは、女優はおろか人智を越えた凄さがあり、まさにマタンゴの“水先案内人”と言おうか、あたかも男たちをマタンゴの誘惑に引きずり込んで破滅させる“ウツボカズラ”のような不気味さをマックスに湛えていたよ。あんな顔で誘われたら、たとえそれが“疑似餌”であっても食らいついてしまいそうだ(;^_^A