神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『実録私設銀座警察』

 『実録私設銀座警察』。様々な書物でこの映画の存在を知って以来、何とか拝見したいと、数年かけて数多のレンタルショップを探し回り、挙げ句には購入も考えていた矢先に、とあるレンタルショップで遂に見つけ、この度とうとう観賞が叶った作品だ。ではなぜ本作を観たかったかというと、とにかく誌面から伝わる、アナーキー且つバイオレンスに満ちた作品世界に触れてみたかったからだ。

 一部で有名な、復員したばかりの度会(渡瀬恒彦)が、最愛の妻ミツ(森みつ子)が黒人兵相手の娼婦に身をやつし、しかも二人の間に混血の子供まで拵えてしまった事実に悲観且つ激怒し、再会と同時に彼女を張り倒して子供を裏のドブ(水たまり?)に力一杯投げ込んで即死させた挙げ句、泣き叫んで子供に寄りかかろうとするミツをコンクリートの破片で撲殺する、というあまりに凄惨なアバンタイトルを遂に観てしまったんだが、やはり無茶苦茶で、早くも本作のアナーキーさが十分伝わってきた。

 ところで、いろんな書物では、この渡瀬演じる度会をドラマの主人公にしているかのように説明されているものが多いが、彼は要所要所で、ドラマの展開とは別次元で登場し、ただただヒロポンに溺れ、ヒロポンほしさに無軌道な殺陣を続け、ラストは、それこそ人間の体内の血液量を遙かに超えるようなおびただしい血反吐を吐いて、そのまま死んでしまう、そんな役回りを演じていたよ。

 物語の中心は、むしろタイトルの「私設銀座警察」の面々である池谷(安藤昇)・宇佐美(葉山良二)・樋口(梅宮辰夫)・岩下(室田日出男)を中心に展開していく。元々は惨めな復員兵と、元来のやくざ者とが徒党を組んで、元々現座で幅を利かせていた山根兄弟(待田京介・郷瑛治)を、宇佐美がヒロポンで手懐けた度会たちを使って謀殺してから、彼らは急激に銀座でのし上がる。しかし一度権力を手にしたら、それからは醜い派遣争うに陥るのはこの世界の常。先見の明を以てやくざから実業家に転身して“ザギン”に君臨しようとする池谷に嫉妬した宇佐美が再び度会を使って池谷の殺害を画策するも見事に失敗、鉄砲玉の度会は池谷の舎弟によってボロボロに殴られ蹴られ刺され撃たれ、果ては雨中の空き地で生き埋めにされてしまうが、度会はゾンビもかくや、というべき超人的な回復力で地中から這い出し、遂に舎弟の結婚式場に出席した池谷を新郎新婦(小林稔侍・中村英子)ごと撃ち殺してしまう。

 その後も、汚職をネタに強請られて池谷に金を工面した役人・斉藤(田口計)と華僑の福山(内田朝雄)とを、宇佐美と樋口が拉致し凄惨なリンチを加え、しかも福山は拷問で左手を文字通り“天麩羅”にされ、不可抗力で度会のヒロポンのアンプルを割ったばっかりに、彼の怒り狂ったパンチを喰らって絶命、挙げ句は豚小屋に放り込まれて“豚の餌”と化す、あんまりな仕打ちを受けることになる。いつもは腹に一物持ったようなあくどい役が似合う内田朝雄が、本作ばかりはとことん痛めつけられ、ぼろ切れのように殺されていくのは、結構衝撃的だったよ……

 結局、汚職役人・斉藤の自主によって、逮捕は必至となった宇佐美・樋口をはじめ「銀座警察」に面々(中にはたこ八郎の姿も!)、娑婆での最後の“思い出作り”にと、全財産はたいて芸者を呼んで、まさに“酒池肉林”狂宴を開くのである。その狂宴ぶりは、もう常軌を完全に逸していて、その狂宴のさなかに、そことは全く異なる次元で、度会は血反吐を吐いてのたうち回って死んでいくのである。

 戦後の復員から始まる「銀座警察」の興亡は、僅か90分程度の尺の中に、まるで『仁義なき戦い』5部作のストーリーを凝縮したような濃密さだったし、殴り蹴る音、ぶった切る音、そして人体を貫通する音がとにかくでかく重く、観ている者の身体にズンズン響いてくるくらい、バイオレンスの描写も濃かった。出る人間出る人間が全て同情の余地がないくらい悪人ってのも、北野監督の『アウトレイジ』シリーズを先取りしたような作品だった。

 確かに爽快感はある。でもまた観たいか、っていったら躊躇してしまうような……そんな映画だったよ。