神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

“王道”島根刑務所

 そもそも『脱獄広島殺人囚』は『脱獄広島刑務所』というタイトルで企画されたが、当局のクレームによって“刑務所”が“殺人囚”に差し変わった、と何かで読んだことがある。これじゃ“刑務所(ムショ)シリーズ”にならないジャン、なんて思ったりもするが、数年前に中国人受刑者の広島刑務所脱走事件が実際に起きてしまったので、世が世なら洒落にならないタイトルになっていたかもしれないな(;^_^A

 というわけだ、今回のお題は『暴動島根刑務所』。“刑務所シリーズ第2弾”ながら、「島根」を舞台にする根拠がなく、広島に住むものとしては島根が隣県なだけに、何とも短絡的な企画に思えてしまった。強いて言うならば、劇中終盤に登場する(といっても話題のみ)網走刑務所と、中国地方にしては雪深い島根が似ていると言うことぐらいか……でもそんな“寒さ”を吹き飛ばすような、ハチャメチャな熱さに充ち満ちたパワー全開の映画だった。

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 主人公は『~広島殺人囚』と同様、松方弘樹。キャラ設定も行動も殆ど変わらず娑婆への周年のみで生きているような男を、獣のようにギラギラした目つきと、無軌道すぎる行動力で突っ走る躍動感で、嬉々として演じている。思えば彼は広島ヤクザ世界の『仁義なき戦い』のレギュラーだったし、前出の『~広島殺人囚』以外にも『広島仁義人質奪回作戦』(牧口雄二監督!!)でんも主演を務めた、意外にも“広島な”俳優である(;^_^A

 物語はこれまた隣県の山口・徳山でヤクザの幹部を殺害した松方が、懲役9年を言い渡されて島根刑務所に収監されたのはいいが、気まぐれに囚人をいびる看守や蛇のように狡猾な看守課長(佐藤慶)に心底嫌気が差して、脱獄をするも再逮捕、挙げ句は看守との諍いから端を発した暴動事件をリーダー格で指揮する、というとんでもない話だ。

 収監後、早速陰険且つ横暴な囚人・金子信雄を挨拶代わりに撲殺し、刑務所で作った家具を所長宅に届けるチャンスを生かして脱獄し、その行きがけの駄賃に所長の妻をスケコマし、脱走後身を寄せた仲間の家でその妹を誑かして逃避行。大阪で完全に彼女の“ヒモ”となるも、善意の人命救助が徒となって再び収監。すると今度は開き直って看守たちにとことん反抗し、慕っていた無期懲役囚(田中邦衛)の自殺によって怒りが頂点に達し、これを口実に囚人たちに飯抜きの苦行を断行した看守たちに反旗を翻す……この全てが、主人公・松方の全く無軌道且つ無計画な衝動によって展開していく。

 この映画を観て思ったのは、監督の意図かもしれないけれど、およそ“伏線”というものが存在しない。まさに“行き当たりばったり”の展開なのだ(強いて言えば佐藤慶の狡猾さが最初から最後まで一貫している点ぐらいか……)。だから面白い。とにかく理屈抜きで、その画面に出てくる衝撃的なカットカットをただただ小脳もしくは延髄で味わえばいい内容だ。これって、B級活劇に必要不可欠な“王道”展開ではあるまいか。

 それでいて、無期囚の邦衛が、唯一の生き甲斐である所内での養豚作業を佐藤課長に無慈悲に奪われ、その瞬間悲観して窓を突き破って自殺するシーンは、後の『アルカトラズからの脱獄』(1979年)での似たような設定(絵画を唯一の生き甲斐とする無期囚が署長から絵画セットを奪われ悲観し自らの利き腕を斧で切り落とす)に影響を与えたかもしれないし、島根の囚人たちの暴動のきっかけが食事に関する不当な扱いだった点は、蛆のわいた肉を「これは蛆でなくハエの幼虫だ」と詭弁を弄して喰わそうとしたことが反乱のきっかけとなった『戦艦ポチョムキン』を連想させるし、ラスト、まんまと佐藤課長に騙されて、暴動を収めたのに網走へ送還されることになった松方と模範囚(北大路欣也)が、護送中、網走刑務所看守課長(中谷一郎)を絞め殺して手錠のまま逃亡し、その繋がった手錠の鎖を鉄橋のレールに敷いて通過する汽車の車輪で切断するシーンは、古典の『手錠のまゝの脱獄』から『網走番外地』まで連綿と続く“お約束”の設定だったりと、とにかく“王道”演出のてんこ盛り。楽しくなってしまう(;^_^A


 残念なのは、劇中ダブルメインキャストで登場する、前出の北大路欣也のキャラクターだ。図らずも人を殺めてしまい、愛する女のために少しでも早く出所したいと、莫迦になって模範囚を演じ続けるという設定で、彼に感情移入すると、本来楽しみたい松方を筆頭に暴れ回る暴走シーンが切なくなってしまう(暴動が長引けば長引くほど、彼の仮釈放の機会は閉ざされる故)。しかも狡猾な佐藤課長に2度もまんまと欺かれるなど、なんとも締まらない。この映画の一連のハチャメチャなエネルギーに棹さすキャラになってしまったのが何とも悔やまれる。中谷課長をぶっ殺して、松方と一緒に逃亡する、あの展開がもう少し早くほしかったよ(;^_^A でもそれをさっ引いても、なかなか面白い映画だったよ。

 ちなみに、ピラニア軍団の囚人然とした志賀勝が網走刑務所看守、本来囚人側にいなければならない室田日出夫が囚人をいびる看守役、そしていつもはヒットマンに冒頭ぼろ切れのように殺されてしまう役がお似合いの川谷拓三が逆に北大路を狙うクールなヒットマン役を演じていたのはユニークだったな。もっとも拓三御大は結局は“いつものように”すぐに返り討ちにあってぼろ切れのように殺されてしまうんだけれど……(;^_^A

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 ※この映画で最高におかしかったのは、死刑執行直後“13階段”の掃除を命じられた松方が、首つりの縄でおどけているウチに、首が絡まって危うく“絞殺”されかけてしまうシーンだ。ブラックながらしこたま笑わせてもらっらったよヾ(ーー )