神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

『オリオン座からの招待状』

 当ブログの体裁からは意外かもしれないけど、昨晩は『オリオン座からの招待状』を観賞。まあ、CSの日本映画専門チャンネルでたまたま放映されていたから観ただけなんだけれど……たまにはこんな映画もいいいもんだ(;^_^A

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 物語は映画産業が花形だった昭和30年代頃の京都の(今で言うところの)ミニシアターを舞台に、その映画館を後のテレビ全盛による斜陽時代を含め必死で守ってきた館主の未亡人・トヨと住み込み雇われ映写技師・留吉を主人公に描いている、ノスタルジー&ファンタジーに満ちた内容である。普通、壮年の頑固な映画館主に比較的若いもぎりの奥さんという一家に若い男が住み込みで雇われる、という展開は、そこで“ジョーカー”と化した若いツバメが一家の夫婦仲を徒にかき回す、そんなドロドロの不倫劇を想像するが、この映画そこら辺の描写がある種“童貞”的といおうか、奇跡的なバランスによって、逆にいい3人の関係として描かれている。実際3人の仲は実に良さそうだった。

 やがてお約束のような咳き込み描写を繰り返した果てに、館主の夫はあっけなく他界し、それから新たな館主となった未亡人と若い男(住み込み技師)とが、これまた絶妙な距離感で同居しながら斜陽に向かっていく映画館を盛り上げようと努力を重ねていく。ここにも生臭い性的な人間描写は殆ど感じられない。

 男優陣は、留吉役の加瀬亮を筆頭に宇崎竜堂、原田芳雄田口トモロヲといったひと癖もふた癖もある役者を廃し、女優も主人公の未亡人・トヨを最近すっかり演技派となった宮沢りえが演じ、清潔感溢れる演技を魅せてくれている。ちなみに彼女の晩年を“デンターライオン”の中原ひとみが演じているが、お互いの観察・研究の成果であろう、全く違和感を感じさせなかった。

 映画の隆盛期から、街頭テレビを写したりガラガラの客席を写したりしてテレビ時代の到来と苦悩を示すベタなシーンがあり、それでも必死に映画館を守る二人と、幸薄い近所の二人の子供とのささやかな交流を、全編淡々とした演出で描いている。ある種“日本版『ニューシネマパラダイス』”の様相を呈してはいるが、あそこまで感涙に咽ぶような演出はされていない。2人の関係も最後まで曖昧で、ラスト近く、オリオン座最終上映時に晩年の留吉(ここでは原田芳雄)が舞台あいさつで、彼女のことをさりげなく“連れ合い”と呼んだときに、映写室でひっそり聞いていた“中原”トヨがハッとして涙ぐむシーンがあるくらいだ。

 主人公トトとエレナとの悲恋、アルフレードの死に際し数十年ぶりに故郷に戻ったトトとかつての知人たちとの交流、壊されてしまう「ニューシネマパラダイス」、そして遺言でアルフレードが授けてくれた粗編集フィルムをトトが観るシーン等々、随所に“「泣き」のスイッチ”を散りばめた同傾向の『ニューシネマ~』と比べたら、カタルシス感の低い作品ではあったが、件の舞台あいさつのシーンや、留吉が、一度はピンク映画館として再出発を考えたが、そうすればもう二度と子供たちに魅せる映画館ではなくなってしまうので、結局思いとどまった、と話すシーンは、それなりにグッと来るものがあった。

 どこか予定調和な映画ではあったけど、それ故楽しめたかな(^^)