白と黒のブーツ② フォーマルでアンチヒロインな黒ブーツ
街を闊歩する女性たちの足下を彩るロング(ニーハイ)ブーツは、大抵「黒」と相場が決まっているようである。先日のブログにも書いたが、白の方が寧ろ清純なイメージが強いのにもかかわらず、数は極めて少なく、逆に“大胆”なイメージを与える。まあ、白を“大胆”と感じるのは、あくまでその数の問題であって、それでも黒が白を凌駕するのは、やはりそれが膨張色ではないからだろうし、黒のロングブーツで足回りを覆ったらよりスリムに見えるはず、という女性側の心理も、数に影響しているであろう。実際、今年のニーハイブーツの流行を予見している記事にも、それはミニスカートの流行に伴って、露出する足を少しでもカヴァーしようとの心理が働いての事らしい。だからより足を覆えるニーハイブーツの需要が高まるのだそうだ。
そんな“数”の論理に左右されてか、黒のロングブーツの方がシックでフォーマルなイメージを纏っている。(マルイの白いブーツのCMにおける)黒谷友香ならともかく、やはりフォーマルな衣装やOLのリクルートスーツには黒がお似合いと、我々はすっかり刷り込まれている感がある。しかし、仮に全身を、例えば黒いコートに黒スカートで包み、黒いグローブをはめて、黒のサングラスでもかけて、「黒」で統一したならば、黒いロングブーツは俄然アンチヒロインのマストアイテムに変貌する。これがコートではなくキャットスーツだったりすると、「女捜査官」「女スパイ」といった体制側の諜報員然となってしまうが、上記の出で立ちならば『Saki 鮮血のアーティスト』における国分佐智子や『女殺し屋牝犬』における江波杏子といったダークな“アンチヒロイン”の雰囲気を醸し出してくれる。
数年前に、日本映画専門チャンネルの「蔵出し名画座」の枠で初めて大映映画『女殺し屋牝犬』を観た時の衝撃っていったらなかった。とにかくクールでかっこいい。アサシンを演じる江波杏子がただただ素敵で、ぐいぐい引き込まれる。暗殺に使う道具が主に指環に仕込んだ針ってのも女アサシンの武器としては説得力があっていい。そして何といっても最後の最後できちんと黒幕に落とし前をつけて、且つ主人公が健在なまま終わるっていうハッピーエンドも好きだ。
しかし、難点もあった。一つはクライマックスで黒幕を主人公が仕留めた際、既にこと切れているはずの黒幕の役者が不用意に瞬きをしてしまう(死んでないじゃん!)点。しかもどアップのカットで。一番大事なカットなのになぜ撮り直してくれなかったんだろうって思った。もう一つは全身レザー系の黒い衣装で統一していたにもかかわらず、足下がブーツではなかった点。まあ本作の封切がロングブーツ大流行の70年代より少し早い1969年だったからかもしれないが、これは物足りなさを感じてしまった。
そんなわけで、まだDVD等のソフト化に至らず、その時期の放映以外に見る機会がない本作を、観られなかった方に紹介するために本気でインディーズの枠でリメイクしてやろうとか、その折りには、「クライマックスでターゲットに瞬きさせない!」「主人公は全身黒づくめでロングブーツ着用させる」を実現させようなんてことを考えたりもした。もっとも“完コピ”なんてとても無理なんで、その雰囲気を味わってもらえるような内容のオリジナル作品ってことなんだけど、これはいつかは是非チャレンジしたいものだ。
タイトルも考えている。題して『黒の牝蜂』。大映のシリーズタイトルの定番である『黒』に、かの元東映社長・岡田茂御大お気に入りの『牝蜂』を加えた、いかにも昭和なタイトルだ。“牝蜂”の名に恥じず、主人公は仕込み針で密かにターゲットの息の根を止める。ここまでは『牝犬』まんまの設定だが、このアサシンの特徴として体の至る所(思いがけない所からも)針が出てくる、という漫画にでも出てくるような能力(テクニック)を持っている。だから仮に敵に拉致監禁されても難なく逃れることが可能だ。そして彼女はハイヒールの黒いロングブーツを履いている。暗殺に支障を来す際は足音一つも立てないが、逆にターゲットを追い詰めるときには、敢えてヒールの音を響かせる。暗い路上に廊下に、延々響き続けるコツコツというヒールの音。おびえて逃げ回るターゲット。ようやく逃げおおせたと思っても、ヒールの音はどこまでもついてくる……
当方の“広島発ヒロインアクションムービー”シリーズは、常に勧善懲悪・笑えるくらいの予定調和といった明朗さを売りにしてきたが、昨今、ブラックなオチの『THE 争奪戦っ!』やズベ公映画を意識して撮った『YOSHIKOを探せ!!』といった“番外編”とも云うべき作品も制作している。それ故、この企画のように、“虫も殺さない”同シリーズと比べたら異質の、それこそ稲葉司監督の『アイドルスナイパー』『アイドルスナイパーNEO』の世界観に近い作品もアリかもしれない(あくまで“世界観”であって、技術的にはまだまだです(;^_^A )。とはいうものの、やはりコアな“昭和”テイストだし、やっぱり幾ばくかの“大真面目故の笑い”の要素は入ってくるだろう。またアサシンものに欠かせない「ガンアクション」に不可欠な弾着やリアルな「剣劇」に必要なCG合成(血しぶきなど)の技術は持ち合わせていないが、このキャラクターの技ならば映像化は可能だし、元来必殺シリーズでも「仕込み針」とか「関節破壊」とか「心臓掴み」といった殺し方の方が、正統派の居合抜きよりも好きだったので、出来ればこの線で考えていきたい。
今まで書いてきたように、このアンチヒロインのキャラクター自体は大分固まってきているが、対する相手(ターゲット)の存在やその背景に関してはまだまだ未知数だし、今までとは異なるダークなヒロインなんで、人選でもいろいろと思案しそうである。まあ『スケバン刑事』の斉藤由貴ではないが、思いっきり真逆のパーソナリティを持った子を抜擢するって手もあるけどね(;^_^A
先日は白ブーツの荒唐無稽な(SFチックな)ヒロイン活劇を描きたいと書いたが、今日はその真逆のようなヒロインの物語の話題。ただ現実的には、ある程度世界観が固まっている分、こちらの方が実現しやすい内容かも知れないな(;^_^A