神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

浜美枝の“勲章”と高島忠夫の“大罪”と ~私見『キングコング対ゴジラ』

 日本人レスラーで唯一、「ジャイアント馬場」「アントニオ猪木」というプロレス界の2大レジェンドからピンフォールを奪ったのが、“ミスタープロレス”こと天龍源一郎であることは、コアなプロレスファンならずとも知る所の“勲章”である。それと同様に、『キングコング対ゴジラ』において、主演の浜美枝が、劇中「ゴジラ」「キングコング」という日米を代表する両大怪獣から執拗に“絡まれた”ことも、また映画史に残る“勲章”である(;^_^A

 

 いよいよ来月には待望の、待望の、待望の………(新型コロナ禍でこんなことを書きたくなるくらい待たされた)『ゴジラvsコング』が公開される。それに合わせたわけでもないだろうか、今月は日本映画専門チャンネルで『キングコング対ゴジラ』の4Kデジタルリマスター版が放映中である。もっとも、『キンゴジ』の4Kは既に放映されているので、今回の放映は、やはり『ゴジコン』(なんて呼び名があるのかなぁ?)公開の“前煽り”なのだろう。

 

 そんなわけで、今回我が人生において何度かわからないくらい観てきた『キンゴジ』を、また改めて観賞。そんな中、いろんな思いにまた駆られてしまった。

 

 

 前述の浜美枝は、上記の“勲章”以外にも、長年東宝で活躍しながら特撮映画主演は本作と『キングコングの逆襲』の二本のみ。奇しくも「キングコング女優」の肩書も有している。取り立てて美形な訳でもないけれど、あの素朴で理知的な表情が魅力的だ。出自がバスガールってのもいい(;^_^A

 

 一方の主演女優、若林映子の初々しさも魅力的だ。後年『007は二度死ぬ』の役どころの影響か、特撮映画ドラマにおいても、ミステリアスな雰囲気を持つアンチヒロイン役が板についてしまったが、本作では人情味あふれるふみ子(浜)の親友・たみ江役を演じ、そのおっちょこちょいぶりから、らしからぬコメディリリーフ役を務めていた。惜しむらくは、かの「チャンピオンまつり」バージョンで彼女の登場シーンが悉くカットされていたことだが、これも4Kリマスター完全版のおかげで無事解消された。

 

 コメディーリリーフといえば、何といっても有島一郎の多胡宣伝部長。そのぶっ飛びぶりは、学生時代に本作を再見してびっくりしてしまった。その頃はすっかり落ち着いた、若者に理解ある壮年役のイメージが強かったからだ。まあ、傍から見たら、こんな迷惑な壮年もいないだろうけどね(;^_^A でも実は本作のキャラクターで、この多胡部長が一番好きだ(;^_^A

 

 化学繊維会社の開発員という、この映画の中では“カタギ”の役で登場する佐原健二も、その後悪徳代議士(『モスラ対ゴジラ』)、自称SF作家のパイロット(『ウルトラQ』)を経て、本作の4年後には“カタギ”どころか地球防衛軍の参謀(『ウルトラセブン』)にまで一気に上り詰める。だがその後はインチキ詐欺師(『決戦!南海の大怪獣』)に身をやつし、やがて西部署御用達のバーのマスター(『西部警察』)として、木暮課長の良き理解者役に収まった。

 

 本作に限らず、『海底軍艦』他、東宝特撮映画に必ずといっていいほどコメディーリリーフ役で登場し、毎回とぼけた味を魅せてくれる藤木悠。『モスラ』におけるフランキー堺同様、演技というよりもナチュラルなボケと笑いを提供してくれる彼も、東宝怪獣映画の記念すべき第一作『ゴジラ』では、栄光丸の無線技士を一切笑いなしの無言で演じ、映画冒頭でゴジラに襲われ船と運命を共にする。

 

 そして……何といってもTTVキャメラマン・桜井役で主演を務めた高島忠夫である。ゴジラキングコングの死闘以外で、本作で一番の盛り上がりを魅せる「キングコング輸送作戦」。その直前、キングコングを眠らせるために、ファロ島で原住民が使った赤い実の汁を合成したファロラクトンをコングの鼻先に散布し、その睡眠効果を上げるために、原住民の奏でる曲のテープを流しながら、それに合わせて必死に太鼓を叩き続けるのが高島演じる桜井なんだけれど、このシーンは、彼の初登場シーンと比べると、実に象徴的だ。彼は冒頭、CMにドラマーとして登場する。本来局のカメラマンである彼がなぜドラムを叩くに至ったかというと、本来CM用にドラマーを呼んでいたのに、手違いで祭りの太鼓叩きが来たため、彼が“ピンチヒッター”として叩いた、ってい設定だ。しかし件のシーンで彼が原住民の曲に合わせて叩くのは、明らかにファロ島の儀式=祭りの太鼓なのである。これは今回気づいた物語上のアイロニーだった。

 

 それはそうと、今回の観賞で改めて、キングコングを日本に連れてこようとした張本人が高島演じる桜井であることを確認した。確かにコング輸送の報を聞いて多胡部長は狂喜乱舞するが、別に彼及びパシフィック製薬がコング輸送を桜井達に依頼したわけではない。彼らが共にTTVの職員であることから伺えるように、あくまでパシフィック製薬がスポンサーの番組「世界驚異シリーズ」の聴取率を上げるべく、コングの取材が本来の目的であったはずだ。

 

 

 なぜこんなことに拘るかというと、彼らがファロ島からキングコングを日本に輸送したために、夥しい数の犠牲者が国内で生じたからだ。ゴジラに対して、どうもコングの方はコミカルに描かれているのでつい見落としがちだが、コングは千葉東海岸から上陸した際、かなりの民家を破壊している。松戸で高圧電流に触れた時も同じ。そして何といっても、都内で走る列車を鷲掴みしてふみ子を“捕獲”した際、彼女と一緒の車両に乗っていた、鮨詰め状態の乗客は、彼女を覗きすべて持ち上げた列車の車内から地上目掛けて降り落されているのである。状況から考えて彼らの生存は絶望的だから、少なくともこのシーンだけで100名以上の乗客がむごたらしい死を迎えているはずである。これでは20年前にJR西日本福知山線で起こった大惨事の被害者数に匹敵することになる。

 

 そんなわけで、コングを日本に連れてこなければ命を失わずに済んだ日本の人間がかなりの数に上ると考えた時、そのきっかけを独断で決めた桜井の極刑は逃れようがないだろう。尤も、コング輸送時にその上陸に待ったをかけた海上自衛隊将校の弁では、キングコングの所有者となっているパシフィック製薬にも責任の一旦はありそうだし、大貫博士はゴジラへの対抗手段としてキングコングをぶつけることを提案したりしているから、責任の所在という点で、一筋縄ではいかないだろうけど。

 

 でも、『ガメラ3イリス覚醒』のように、どんな事情があろうとも、直接怪獣被害で身内を失ったら、当然そのきっかけを呪うに違いない。そう考えると『キンゴジ』は実に罪作りな設定だったといえるかもしれない。