神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

斎藤洋介氏と『餓鬼魂』

 ホラーであれ何であれ、とにかく自主映画(今でいう所のインディーズムービー)なるものをむさぼっていた学生時代、朝日ソノラマの「季刊(当時は隔月間)宇宙船」と同じように愛読していたのが「VZONE」なる雑誌。この本も隔月間発行だったが、丁度「宇宙船」とは発刊時期が一ヶ月ずれていたので、毎月「宇宙船」か「VZONE」のいずれかは手に入れることができた。

 

 さて、件の「VZONE」だが、刊行当初はアニメ雑誌だったらしいが、いきなり路線を変更して、SF映画史、それもホラー・スプラッターをメインにした雑誌となっていた。この本を通してサム・ライミの『死霊のはらわた』や、石井輝男の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』をはじめとする東映異常性愛路線、小水一男(ガイラ)監督の撮り下ろしによるスプラッターホラーVシネマ「GUZOO]などに触れることが出来て、今の我が“シネマいかがわ史”に多大なる影響を与えてくれた雑誌なんだけど、栄えあるスプラッター専門誌への変貌後最初の企画ものが。、当時円谷プロが制作した、長塚京三松居一代主演の『餓鬼魂』なるVシネマ特集だった。近年、それまでの夫である船越英一郎との“骨肉の離婚劇”を演じた松居が、それでも当時(1985年頃)は清純派として活動していて、本作でも子宝には恵まれないものの、夫を支える貞淑な妻役として出演していた。

 

 

 さて、かの夢枕獏氏の原作による『餓鬼魂』は、人間に巣食って、やがて宿主の人物の口を顎を引きちぎって誕生する“餓鬼”と、何故か宿主となった人間は、その後生み出した餓鬼を喰わずにはいられないという衝動に苛まされてしまう(まさに“餓鬼道”!)、という業が描かれている。一旦餓鬼を“生み出した”がために、急激な飢餓感(どうしても餓鬼を喰いたい!)に襲われるのだが、その役を演じたのが長塚京三で(もしかしたら彼の初主演作?)、制作会社が円谷プロなんで、実際彼の口をこじ開けて餓鬼魂が誕生するシーンが特殊効果で描かれているし、クライマックスには、マペットによるの餓鬼魂と松居との“格闘”シーンが用意されている。子宝に恵まれない設定の彼女が、化け物とはいえ夫の体から“生まれた”餓鬼魂に感情移入していく様も実にユニークだった。

 

 

 そんな『餓鬼魂』において、己も餓鬼魂を“生み出した”経歴を持つ、本作の“ジョーカー”的存在でもある「餓鬼ハンター」。その役を演じていたのが、先頃惜しくも物故した斉藤洋介氏である。劇中における氏もまた、顎に無残な裂け傷を負い、治療もままならないまま傷は残り、それをマスクで終始隠しているという不気味な設定で、それこそ、氏の特徴である大きな顎を生かしたキャスティングであったと思う。しかしながら、本作では全編を通して不気味で怪しく、TBSの学園ドラマなどで魅せた柔和なイメージからはかけ離れた異様ぶりに。トラウマ級の驚きを当時感じたのを覚えている。ちなみに氏のwikiフィルモグラフィーの『餓鬼魂』の記述はない。

 

 しかし、「終生バイプレーヤー」のイメージが強い氏にとって、本作は数少ない主役級の活躍を魅せた作品といっていい。あんな不気味な役から温和なキャラクターをこなし、あの容貌によっていい意味でどちらも様になる、そんな稀代の俳優だったと思う。まだまだ活躍してほしかった……合掌

 

 


斎藤洋介さん急死、咽頭がん切除も昨日「調子悪い」
https://news.yahoo.co.jp/articles/25a23a31e38774a234eaffefb7314fac1bbc2c32