神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

楽曲が映像を磨き、映像が楽曲を彩り……エンリオ・モリコーネ氏を悼む

 映画でもドラマでも、印象に残るシーンには、必ず印象に残る音楽が流れているものだ。

 

 例えば『太平洋奇跡の作戦キスカ』におけるキスカ撤収のクライマックスには「キスカマーチ」が流れていたし、『男たちの挽歌Ⅱ』の弟キット(レスリー・チャン)や娘ペギーの仇討ちに、ホー(ティ・ロン)、ルン(ディーン・セキ)、そしてマーク(チョウ・ユンファ)が怨敵コーの邸宅に殴り込みをかけるシーンには、本作のメインテーマが高らかに鳴り響いた。『さびしんぼう』では全編ショパンの「別れの曲」が手を変え品を変えて流れ続け、登場人物の心情を時には優しく時には激しく演出した。『怪獣大戦争』や『フランケンシュタインの怪獣サンダ対ガイラ』では、“東宝自衛隊”の対怪獣作戦が展開される背景に、勇壮な“伊福部マーチ”が流れていた。『リンキング・ラブ』のクライマックスを彩るのは、“ASG16”が奏でるAKB48の楽曲だ。

 

 映像が音楽を印象付けるのか、はたまた音楽が映像を印象付けるのか……ともかくも、映像と音楽の相乗効果によって、映画・ドラマの、忘れられない、何度も観続けたい名シーンが誕生するのである。映像も音楽も「時間の芸術」。時間なくして双方とも描くことはできない。それ故この2つの芸術の親和性は深い。そしてそれが結実した珠玉のシーンに、思わず笑みがこぼれたり、気分が高揚して活力の源となったり、気持ちよく優しい涙が流せたりするのである。

 

 そのように、聴けば思わず涙腺が緩んでしまう曲に、『ニュー・シネマ・パラダイス』のテーマがある。勿論、この曲があたかも“パブロフの犬”の如く、耳にしただけでなぜか胸が締め付けら熱い涙がこみ上げてくるのには、この曲を背景に展開する悲しくも美しいトト(サルヴァトーレ)とアルフレードとの触れ合いや初恋の人・エレナとの出会いや別れ、そして物語の全編に連なる“映画愛”に満ち満ちたストーリーと演出という“映像”があってのことだ。しかし、逆に、このテーマがなかったら、これらの映像にそれだけ感動を覚えられただろうか、と考えると、この楽曲はそれだけの「力」を持っていたと思うし、映像と奇跡的にマッチングした、そして本作を映像と同様“演出した”かけがえのない楽曲だったといえる。そう考えると、作曲家もまた映画監督に匹敵する「映画の演出者」といっていいかもしれない。

 

 

 

 そんな奇跡のような楽曲を奏で上げたのが、イタリア、否、世界の誇る映画音楽界の巨匠、エンリオ・モリコーネ氏である。今回、“大往生”といえる氏の逝去に際し、改めて氏の映画音楽に特化したディスコグラフィーを拝見したら、名作からジャーロホラー、スパックロマン、マカロニウエスタン、サスペンスアクション、文芸エロスに至るまで“振り幅の大きい”様々なジャンルまでこなしていた、「芸術家」というより「職人」の気骨のある作曲家であることに改めて気づかされた。しかもハリウッドをはじめ世界を股にかけて……

 

 

 まさに自らのキャリアがそのまま「映画史」といっても過言でない氏の逝去は、確かに世界映画界にとって計り知れない喪失だろうが、既に氏が世の残した楽曲を考えれば、もう十分過ぎるくらい映画界に貢献してくれたといっていいかもしれない。 

 

 自らの命は果てても、その“分身”はいつまでの世の映画ファンに聴き継がれていくのである。合掌。


 


イタリアの映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネ氏死去 91歳
https://news.yahoo.co.jp/articles/f8c851c1f9e5fbf614b22832fc961bd244a7ddd0