神宮寺真琴のつぶやき~TBossのブログ~

ヒロインアクションの考察から、インディーズムービー・劇場映画の話題まで

「令和元年度スクリーンライブHiroshima」

 過日、広島を盛り上げる実行委員会さんの「令和元年度スクリーンライブHiroshima」へ行ってきた。同イベントは今年で9回目の開催。ウチの「ヒロインアクションまつり」は来る3月の「チャンピオンまつり」をいれてもまだ4回目だから、大いに見習うべき歴史を重ねたイベントだ。

 

 同イベントを毎回企画している、山中富雄氏は、今広島のインディーズムービー界で、上映会を「興行」の域まで昇華している稀有な存在だといえる。上映形態も、作品上映のみならず、ライブ演奏(それも上映とは別立てで企画されるケースも)なども交えた、エンターテイメント趣向のイベントをプロデュースしている点も、同じ上映会を企画するものとして非常に勉強になっている。今回の、作品タイトル『おはぎ』にちなんで、行森商店の「広島おはぎ」を来場者全員にプレゼントするなど、流石としか言いようがない。

 

 

 さて、今回は2月8日の回に参加した。封切とあってか観客の入りも上々、あの広いマルチメディアスタジオがみるみるうちに埋まっていく。客層もあらゆる世代、特に年配の層が多く、自主映画が初めてのような方々もいた模様。ここら辺はインディーズムービーの底上げに一役買っている感がある。おかげさまで、今回快くはセ込みを認めてもらった「チャンピオンまつり」のチラシが多く配布出来て、それはそれで有難かったのだが、ウチの内容が内容だけに、今回の客層が見たら怒られやしないかってちょっぴり心配になってしまったよ(;^_^A

 

 ところで、今回観賞した作品の感想については、以下に記したい。

 

『トマト仙人とサヨ物語』岩本浩明監督)
 本作は今回2度目の観賞。感想については、以前このブログに記した(「『わかもの映画祭』感想(https://blog.hatena.ne.jp/TBoss/jinguji.hatenablog.com/edit?entry=26006613481790241)が、やはり脇田吉宏氏の粘液質な怪演と竹下ひかり嬢のツンデレ演技は素晴らしかった(^^)

 

『お花クイーンは電気猫の夢を見るか』岩本浩明監督)
 岩本監督の作品は独特の不条理感というか、観る者をグイグイ振り回す独特のテイストがあって、観ていくうちにクセになっていく“中毒性”を持っている。本作も短編ながら、ストーリーが見えそうで見えない、登場人物がセリフと演技で意外な方向へ暴走していく、無機質とむき出しの感情が交錯する、これもまた一級品の不条理劇に仕上がっていた。当団体の『電光石火☆八城忍』でも活躍してくれた香川美夏嬢の空恐ろしい怪演も光っていた。

 

『令和想い』山中富雄監督)
 映画人たるもの、出来れば「綺麗で芸達者な女優さんと撮影旅行ができたら」なんて妄想を持ってしまうものだがヾ(・_・`;)、そんな思いを山中監督はスクリーン上で具現化してくれている。また短編ながら、そこにきちんと主人公の成長の物語が描かれているのがいい。おそらく山口方面だと思うが、全編ロケ独特の解放感としっとりした雰囲気が素敵。また、映像も赤の鳥居の描写など、色彩美にも溢れ、小粋な小品に仕上がっていた。「抒情詩のような映画」との監督のコメントはまさに言いえて妙! いい意味で「舌っ足らず」なテイストの愛すべき作品だった。

 

『蚊太郎と若葉』本光優香監督・葉月朔史監督)
 これは実に異色作。冒頭のドローンによる空撮が実は「蚊」の視点だったという点から、いきなり「つかみはOK」な作品。サブタイトルが古典の「虫愛づる姫君」(by『堤中納言物語』)ってところが実に粋だが、実際にヒロイン若葉と、女(雌?)と言い張る蚊の「蚊太郎」との交流を描いていた。この蚊太郎を男性が演じ、当初は実にうっとうしい存在なのだが、いつの間にか感情移入してしまうのが不思議、というか演出のマジック。クライマックスの、若葉の彼氏との不良たち(ここでも脇田氏の怪演が光る!)との人生をかけたバスケット勝負で、彼氏のパートナーが蚊太郎になる辺りは、もう物理の法則を超えた世界観なのだが、これも力技で演出してしまうところが凄い。そして感動の大団円を迎えたと思ったら……ラストの不条理な展開は、もう観る者の感性をはるかに超えたものだった! クロマキー合成を多用した蚊太郎の出演シーンは一見の価値あり!

 

『おはぎ』山中富雄監督)
 今回のイベントのメインを飾る作品。主演も務める菜々瀬まいさん脚本による、山中監督渾身の一本。昨年は『逃げる』で華麗なヒロインソードアクションを演出した山中監督が今回手掛けたのは、何と戦争映画。しかも反戦の願いを込めた映画だ。時は大東亜戦争時、海軍の兵学校がある島で看護師を務める主人公・美沙は、とあるきっかけで、兵学校の若いエリート青年・太郎と出会い、恋におちる。この時の初々しい出会いと、その距離感が徐々に埋まっていく様子が、特に美沙の言動からにじみ出てくる演出がいい。美沙役を務める菜々瀬まい嬢のその洗練された都会的な容貌が、お下げ髪と天真爛漫な演技でいかにも戦時中の乙女然としているのが見事だった。相手のエリート青年軍人・太郎役は、我がIPFでも『電光石火☆八城忍』以来常連俳優の田中翔貴君だが、同じ恋愛でも拙作『学園特捜☆伍代聖羅』で魅せてくれた頓珍漢でコミカルな男子高校生役とは打って変わり、実直で責任感と恋愛の狭間で悩む青年軍人を、真摯な演技で演じ切っていた。そんな二人の微笑ましい出会いに観ている側もつい胸をときめかせてしまうが、ある種この手の映画の”王道”といっていい結末が二人を待ちうけていることもまた想像でき、それ故、次の展開が心配でスクリーンに目が釘付けになってしまう。ここでもいい意味で“エキセントリック”な演技を魅せる菜々瀬嬢の姿に胸は塞がり、潜航艇のシーンにおける翔貴君の迫真の演技は、彼の芸歴でベストといえるくらい,言葉で表現しきれないくらい、鬼気迫るものがあった。

 莫大な予算でセットを組める大手の劇場映画と違い、少ない予算と時間を工夫しなければならないインディーズムービーにとって、戦時中を舞台にすることの大変さは身に染みてわかるが、オープンロケでありながら見事なロケ場所のセレクトと絶妙のアングルで、違和感なく戦時中の映像と思わせる山中監督の創意工夫ぶりには舌を巻いた。また当時の映像を時にはインサートし、またオーバーラップで実景と合成しながら時代感を醸し出しているところも、時代感を出す効果としてうまくいっていたと思う。菜々瀬まいさんの脚本も、女性の視点で描かれているからこそ、戦争の悲惨さの表現が従前のものとは違ったアプローチで、兵士を送り出す側の苦悩が垣間見られて、この種の戦争映画の中では斬新なストーリーだった。戦後75年を迎え、近い将来戦争体験者が日清・日露・第一次大戦と同様に、被爆体験者と共にいなくなってしまうことを危惧しなければならない中、戦争体験を親や祖父母から伝承されたであろう世代の山中監督と、さらにうんと若い世代の菜々緒さんのような若者に継承されていく尊さをかみしめる……そんな作品だった。

 

 作品の感想はここまで。上映会自体は非常にあったかな雰囲気で進行し、舞台あいさつにも惜しみない拍手が送られていた。最後のもらったおはぎは、本当に立派なもので、あまりにもったいなくて食べ始めるまで2日もかかってしまったよ(;^_^A